スピンの統計力学

 

(1)磁性を生む力ー交換相互作用

 
2つの軌道に電子を1ケづつ入れた時のクーロン相互作用を量子力学的に計算する。
(イ)のようにスピンが同方向のときは、古典的静電エネルギーからJだけエネルギー
が低くなる。また(ロ)のようにスピンが逆向きのときには、スピンの向きが逆転して
(ハ)のようになる。逆に(ハ)の時は(ロ)に変わる。これはスピンの向きを変えていく
運動エネルギーに対応する。この二つのエネルギーをまとめるとSi, Sjを2つのスピン

 として

 J SiSj となる

 

(2)ハイゼンベルグ模型

結晶中で電子が各電子に局在し、しかも閉殻を作っていないと、原子はスピンを持つ。
隣接したスピン間に交換相互作用が働くとすると全体のエネルギーは
(隣接した対で和)
となる。エネルギーが最低となるのは、全スピンが同じ方向を向いている時で、
強磁性状態になっている。完全強磁性状態

(3)相転移

ハイゼンベルグ模型にはスピンの向きを揃えようとする交換相互作用の他に、乱雑さを
増大させようとする温度のもたらす力が働く。絶対零度でこの力は無くなり、全スピンが
同方向を向く。ある温度Tcで2つの力が釣り合う。Tc以下では全体としてスピンはある
方向を向き強磁性を示すが、Tc以上では消えてしまう。これを相転移と言う。またTcで
帯磁率、比熱などの物理量が、発散したり飛びを示したりする。
 

(4) 分子場近似による相転移

すべてのスピンを正確に扱って相転移の議論をするのは一般にはできない。そのかわり、
一個のスピンに着目して、周囲の影響を平均化して分子場と呼ばれる磁場に置き換え、
そのなかでのスピンの温度変化を調べる。注目したスピンの向きの平均が最初に与えた
分子場になるようにつじつまを合わせる。このようにすると、多数個のスピンの問題が
1個のスピンの問題で近似できる。
 

(5) スピン波

ハイゼンベルグ模型では全スピンが同方向を向いている時、エネルギーが最低であるが、
次に低いのはどういう状態だろうか?1個のスピンの向きを逆転すると、そのスピンは1ヶ所
には留まっておられず次々隣へ伝播していく。このような波をスピン波という。この波の
持つ運動量が大きい程、そのエネルギーは大きくなる。温度が高いとこのようなスピン波が
多く作られて、全体のスピンが小さくなっていく。
 

(6) 厳密に分かること

鎖状に大きさ1/2のスピンが並んだ一次元ハイゼンベルグ模型は、厳密に比熱・帯磁率を
計算できる。 別に、1・2次元ではT>0でスピンの向きに長距離に渡る秩序がないことも
厳密に証明できる。従って有限温度において相転移を起こすことは無い。3次元性があって
初めて相転移を起こす。
 

(7) 厳密解の応用

分子磁性体p-NPNNの帯磁率と磁化曲線を厳密解で求めたものと比較した。
このことからp-NPNNのγ相は一次元強磁性体であることが明らかになった。
なお、試料の作製は旧木下研で、測定は石川研で行った。 

(8) 反強磁性体における新展開

スピン1の一次元反強磁性体とスピン1/2の一次元磁性体は大いに性質が異なる
ようである。前者はエネルギースペクトルにギャップを持つが後者は持たない。右に量子
モンテカルロ法によって求めた各運動量状態での最低エネルギー状態を示す。
スピン1の場合は明らかにギャップが存在する。スピン1/2の場合はギャップがない。
この計算は量子モンテカルロ法を使って行った。
 
 

 (9)強磁性体の磁化曲線

一次元強磁性体において縦軸に磁化、横軸に h/T^2をとる。温度が下がるにつれて一般的なスケーリング
関数に近づく。この計算はベーテ仮説を使って行った。

 
 
 
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現在の研究室の構成は、 

というメンバーです。
研究テーマとして主なものを挙げると、 となります。
mtaka@issp.u-tokyo.ac.jp