有機物が磁石に

 

通常磁石は鉄、ニッケル、コバルト、または希土類金属等の金属系の原子が含まれている。

しかし、炭素、水素、酸素、窒素のような軽い原子だけで強磁性体を作ることは有機化学の

長年の懸案であった。当研究所では木下、石川、高橋研究室の協力で世界で始めて、有機

強磁性体を合成することに成功した。 p-NPNNは図にしめすような簡単な分子構造を持つ

物質である。

この図はこの物質の帯磁率X絶対温度で低温で非常に強い発散が見られる。また

計算は厳密解の方法を使っておこなった。

その後、世界中の研究者により多くの有機強磁性体が合成され、以下のような物質が強磁性を示すこと

が確認されている。

 

但し、強磁性の転移温度は絶対温度で1k前後と大変に低温である。現在のところ

温度が低すぎて磁石としての実用には程遠いが、C,H,O,Nだけで磁石ができるのは

興味のある話である。

 
 

(2)ハイゼンベルグ模型

隣接したスピン間に交換相互作用が働くとすると全体のエネルギーは
(隣接した対で和)

H=-\sum J S_i S_j
結晶中で電子が各電子に局在し、しかも閉殻を作っていないと、原子はスピンを持つ。

となる。エネルギーが最低となるのは、全スピンが同じ方向を向いている時で、
強磁性状態になっている。完全強磁性状態

(3)相転移

ハイゼンベルグ模型にはスピンの向きを揃えようとする交換相互作用の他に、乱雑さを
増大させようとする温度のもたらす力が働く。絶対零度でこの力は無くなり、全スピンが
同方向を向く。ある温度Tcで2つの力が釣り合う。Tc以下では全体としてスピンはある
方向を向き強磁性を示すが、Tc以上では消えてしまう。これを相転移と言う。またTcで
帯磁率、比熱などの物理量が、発散したり飛びを示したりする。
 

(4) 分子場近似による相転移

すべてのスピンを正確に扱って相転移の議論をするのは一般にはできない。そのかわり、
一個のスピンに着目して、周囲の影響を平均化して分子場と呼ばれる磁場に置き換え、
そのなかでのスピンの温度変化を調べる。注目したスピンの向きの平均が最初に与えた
分子場になるようにつじつまを合わせる。このようにすると、多数個のスピンの問題が
1個のスピンの問題で近似できる。
 

 (5) 厳密解の応用

分子磁性体p-NPNNの帯磁率と磁化曲線を厳密解で求めたものと比較した。
このことからp-NPNNのγ相は一次元強磁性体であることが明らかになった。
なお、試料の作製は旧木下研で、測定は石川研で行った。