高輝度真空紫外・軟X線光源の建設推進に関する声明文
 我が国における放射光利用研究は、1975年 世界に先駆けた物性研究専用電子蓄積リングである東京大学物性研究所のSOR-RINGの建設を皮切りに、高エネルギー物理学研究所のフォトンファクトリー、分子科学研究所のUV-SOR、原研-理研共同チームのSPring-8などの新しい放射光施設の建設をそれぞれの契機として発展を遂げ、世界的な水準を保ってきた。現在、放射光利用研究の最先端は、第三世代放射光源と呼ばれる高輝度放射光を用いた研究に移行しつつあり、我が国においては、1997年に完成した硬X線を中心とした高輝度放射光施設である大型放射光SPring-8で展開されている。SPring-8の性能は、同時期に海外で建設された大型放射光施設APS(米国)、ESRF(欧州)を凌ぐもので、物理学、化学、地球科学、結晶学、構造生物学など多くの分野で重要な成果をあげている。これら硬X線光源の主な役割が物質の原子配列・結晶構造を解明することによって科学の様々な分野に貢献することであるのに対し、真空紫外・軟X線光源の主な役割は、物質中の電子の振る舞いを詳細に分析することにより物質の物性・機能性の発現機構を解明し、様々な科学の分野に貢献することである。すでに海外では、ALS(米国)、ELETTRA(イタリア)、PLS(韓国)、SSRC(台湾)など、いくつかの真空紫外・軟X線領域の高輝度放射光施設が建設され、優れた成果を出し始めている。また、さらに高い輝度をねらうSLS(スイス)の建設も昨年開始された。

 東京大学物性研究所が推進してきた高輝度光源計画は、これらの施設を凌ぐ真空紫外・軟X線領域の超高輝度放射光を供給するもので、加速器科学の最先端にも挑むものでもある。東大高輝度光源計画が目指す 超高輝度真空紫外・軟X線放射光は、物理、化学、材料科学、生物学、電子工学、光科学の研究に新しい展開をもたらすものとして、我が国の放射光利用研究者がその実現を熱望しているものである。高輝度光源によって、超高分解能分光、超微小領域の分光等がより高精度で可能になり、無機物質から有機物、生体物質に至る物性研究、物質探索、機能開発に新たな展開がもたらされることが期待されている。また、超高輝度が生み出すコヒーレント真空紫外光は新しい光科学の展開を可能にする夢の光である。

 東大高輝度光源計画は、真空紫外・軟X線領域で世界最高の輝度を持つ全国共同利用施設として、全国のユーザーの熱い期待を背負ってきたが、残念ながら近年の緊縮財政、東京大学柏新研究科設立などの急展開のために、平成11年度概算要求では実現されず、現在その早急な実現が強く望まれている。一方、広島大学(学内、地域共同利用型の小型放射光)、東北大学(北日本を中心とした共同利用型の中型放射光)など、真空紫外・軟X線を中心に一部硬X線もカバーする汎用放射光のプロジェクトが計画され、広島大学ではこれが実現している。これらの展開から見えてくる放射光利用研究の将来像は、真空紫外・軟X線領域を中心とする高輝度放射光施設と硬X線領域を中心とする高輝度放射光施設が先端的・先導的な研究を支え、中型・小型放射光施設が放射光利用研究の裾野を広げていくというものである。このようなそれぞれの施設の特色を活かした役割分担が、我が国の放射光利用研究の将来のバランスのとれた発展のために不可欠であろう。東京大学高輝度光源計画は、技術的、学術的、制度的な検討、ユーザーの組織化等が進み実現間近にあると言ってよい。我々VUV.SX高輝度光源利用者懇談会会長、幹事および有志は、ユーザーを代表して、その早期実現を熱望しその推進に力を惜しまないことを表明する。

VUV.SX高輝度光源利用者懇談会 幹事および有志

藤森  淳(会長、東大理)
小杉 信博(分子研)
尾嶋 正治(東大工)
小谷 章雄(物性研)
大門  寛(奈良先端大)
菅  滋正(阪大・基礎工)
辛   埴(物性研)
谷口 雅樹(広島大理)
小森 文夫(物性研)
中村 典雄(物性研)
雨宮 慶幸(東大工)
難波 孝夫(神戸大理)
伊澤 正陽(高エネ研)
木下 豊彦(物性研)
太田 俊明(東大理)
柳下  明(高エネ研)
柿崎 明人(物構研
檜枝光太郎(立教大理)
神谷 幸秀(物性研)
高倉かほる(ICU)
関  一彦(名大)
菅原 英直(群馬大)
上野 信雄(千葉大)
見附孝一郎(分子研)
宮原 恒(都立大理)
籏野 嘉彦(東工大)
篠原 邦夫(東大医)


Monday,10,May,1999

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