最近の加速器設計から 中村 典雄(東大物性研)

 現在、進められている加速器の設計の中で具体化しつつあるものに、high-emittance modeがあります(表1)。High-emittance modeでは、ビーム寿命がlow-emittance modeの3倍も長く、約9時間になります。これは、ビームの安定領域が広いことに依りますが、もともとはその特長を活かしてコミッショニング時のオプティクスとして、光源をできるだけ早く立ち上げる目的で設計されていました。しかし、low-emittance modeのビーム寿命は(ALSの1.9GeV運転と同程度であるけれども)少し短すぎるのではないかと不安を持たれるユーザーの方々がいましたので、1つの運転のオプションとしても検討することになりました。「high emittance」といっても他の第3世代リングに引けを取らないほど小さなエミッタンスになっていますし、アンジュレータ光の輝度もlow-emittance modeの半分程度はあります。このmodeでは、四極電磁石に余裕があるので、ビームエネルギーを1.2GeVまで上げることが可能です。これにより、挿入光源(アンジュレータ、ウィグラー)からの光のエネルギーは1.44倍高くなり、偏向電磁石からの光の臨界エネルギー(critical energy)は1.73倍になって約1.7keVになります。この場合でも、ビーム寿命は約10時間を確保することができます。

 本計画が1GeVリングに変更された当初から円偏光の光のエネルギー範囲についての質問があり、それに対する検討を行ってきました。われわれの検討してきた偏光可変アンジュレータは4つの磁石列からなるタイプ(APPLE-II)で、内外の放射光施設(SPEAR、ALS、SPring-8、TLS等)での運転や製作の実績を持つと同時に、同じ周期長と最小ギャップに対して既存のアンジュレータの中で円偏光の光のエネルギーの可変範囲が最も広くとれる(つまり、水平・垂直磁場が共に強くとれる)ものです。しかも、このアンジュレータの磁石列間の位相を変えることで、円偏光、楕円偏光、直線水平偏光、直線垂直偏光の光をすべて発生することができます。円偏光モードでは、周期60mmで25-150eVの光を発生しますが、楕円偏光モードも利用すれば、(100%の円偏光度ではありませんが)高次光によって約500eVまで使用できる可能性があります。図1にその円偏光フラックス(フラックスに円偏光度を掛けたもの)を示します。これによって、本光源の利用実験の範囲がさらに広がることを期待しています。
 


Monday,10,May,1999

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