計画に関する最近の状況と光源のオプション 神谷 幸秀(東大物性研)

最近の状況

 既にニュース・レター、懇談会総会等でご報告申し上げていますように、財政構造改革等の諸事情を勘案し、平成9年秋頃より、VUV領域での利用研究の飛躍的発展を目指した1GeV新規計画の策定を行ってきました。この新規計画は、平成10年3月、東大評議会において適切であると承認され、これに基づいて平成11年度の概算要求が行われましたが、大学当局の努力にも拘わらず、その実現には至りませんでした。
 しかしながら、柏キャンパス関係では、物性研、宇宙線研の移転計画が順調に進行しており、既に、物性研の一部移転が開始されています。また、平成10年度の第1次及び第3次補正予算で、柏キャンパスの新研究科の用地取得と一部建物経費が認められています。さらに、第3次補正では、柏キャンパスにSOR施設の新実験棟[約1,200m2]を建設するための経費及び移転経費が認められています。この実験棟は、柏キャンパスで最初に認められた「暫定建物」であり、またイノベーション・フィールドと呼ばれる区域に建つ最初の建物でもあります。この建物は、暫定建物とは言え、使用する立場から見ると、5 tのクレーン、冷却水・空調設備を備えた本格的なものとなっています。また、この建物には、「東京大学高輝度光源推進室」なる「表札」を掲げることが東大本部から認められています。また、SOR施設の予算関係でも、平成10年度に物性研から、総額約1億円のR&D関連経費(単年度)が配分されており、平成11年度には、東大本部から「全学的支援経費」(仮称)が配分されることになっています。
現在は、平成12年度概算要求に向け、準備が進められておりますが、関係者は、近いうちに柏の残りの土地が確保され、そこに高輝度光源が実現されるとの熱い期待を抱いています。

光源のオプション

 ここ数ヶ月、施設の設計及びR&Dは順調に進展しており、光源リング・ラティスの最終案も出来上がり、ビームラインの具体的な設計も行われるようになりました。現在では、設計がかなり進んできたこともあり、ユーザの方々のいろいろなご意見やご提案を取り入れたオプションについて検討を始めています。以下に、現在、検討中のものも含め、光源のオプションについて簡単に紹介することにします。

(1)挿入光源の常時利用の可能性
これまでの案では、アンジュレータの利用形態は、27mのアンジュレータ1台をほぼ常時利用(一部、MPW利用)する、約5 mのアンジュレータ4台をタイムシェアリングで利用するというものですが、現在、後者のアンジュレータを設置する予定の長直線部をわずかにノコギリ状に変形することによって、ほとんど他に影響を与えることなく、4台のアンジュレータからの光を常時使用可能にすることを検討しています。案が固まってくれば、ご報告できるようになると思います。

(2)high-emittance mode
この光源リングの最小のエミッタンスは、1 GeVで約0.73 nm・radですが、より安定で、かつビーム寿命が長い、高いエミッタンスをもつ運転モードについても、既に詳細な設計検討が行われています。ただし、高いエミッタンスといっても、その値は約3 nm・radであり、他の施設と比較しても十分小さな値となっています。

(3)1.2 GeV運転
high-emittance modeでは、四極電磁石に余裕があるため、ビームエネルギーを1.2GeVまで上げることが可能であり、アンジュレータ光のエネルギーが1.44倍(200 eVが約300 eV弱)、偏向電磁石からの光のエネルギーが約1.7倍(critical energyが約1 keVから約1.7 keV)になります。

(4)超伝導電磁石の可能性
現在、光源リングに超伝導電磁石を設置する案について検討を始めています。一つは、超伝導ウィグラー(約6 T)を挿入する案であり、もう一つは、リングの二つのアーク部の中心にある偏向電磁石を超伝導電磁石(約6 T)に入れ替える案です。ビーム・エネルギーが1.2 GeVであるとすると、発生する放射光のcritical energyは、約6 keVとなりますので、約30 keV程度までのエネルギーの光が利用可能になると思われます。

(5)いろいろな運転モードについて
アンジュレータのタイムシェアリングについては、ユーザの方から、ご批判を頂いておりますが、本計画の施設は、1日24時間運転されますので、実験準備、試料作成、サンプル・チェンバーのベーキングなど、光を直接利用しない時間や、利用者の睡眠・食事時間等々を考慮して十分な時間調整を行うことで、支障なく実験を遂行できるものと考えています。時間分割も、1日12時間交代や1日以上の期間での交代など、ユーザの方々のご要望にそった運転が可能です。また、本計画の場合、単バンチではビーム寿命が短くなりますが、いわゆるトップ・アップ入射の方式(ほぼ連続、または間欠入射を行うことによって、ビーム電流を一定にする方式)を採用することにより、単バンチ運転に対応することを検討しています。なお、この単バンチ運転では、10ピコ秒弱のパルス幅(1σ)の放射光が利用可能です。

以上、現在、検討している光源のオプションについて簡単にご紹介いたしましたが、ご意見、ご質問等ございましたら、SOR施設または懇談会事務局の方にお寄せ下さい。また、この光源リングの場合、採用したラティス構造(theoretical minimum)の特性のために、偏向電磁石の中心でのビーム・スポットが水平、垂直方向とも(1 σ当たり)約10ミクロンと非常に小さくなっていますので、この特徴を活かした利用方法、実験テーマに関し、積極的にご提案くださいますようお願い申し上げます。


Monday,10,May,1999

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