まず、
H7.6.6
柏新キャンパスに設置することが計画されている高輝度光源施設など、加速器関連の諸計画を総合し、加速器科学研究センター〔仮称〕を設置する構想について全学的見地から検討するために“加速器科学研究センター〔仮称〕に関する懇談会”およびその具体的内容を検討する“加速器科学研究センター〔仮称〕に関する検討小委員会”(以下、検討小委と略称)が設置された。
H8.2.27
上記“懇談会”より、「加速器科学研究センター〔仮称〕構想は適切であり、すでに柏新キャンパスへの移転が確定している物性研究所と特に関係の深い高輝度光源施設については、他の施設に先んじて全学的支援のもとに設置されることが期待される」との報告書が出た。
しかし、その後、国の財政事情を考慮して計画を再検討する必要にせまられた。そうして、平成9年度後半から以下のように集中的な議論が多くの関係者によってなされた。
H9.10.9
VSX利用者懇談会・拡大幹事会 [計画見直しの検討、物性研を中心に新規計画の策定]
H9.11.12
物性研・軌道放射物性研究施設運営委員会 [計画変更について合意]
H9.11.22
物性研・新規計画の中間報告会 [VSX利用者懇談会の幹事会メンバー等に策定中の新規計画について説明。計画の目的・内容についてほぼ合意。]
H9.12.10
VSX利用者懇談会・拡大幹事会 [新規計画を了承]
H10.1.9
VSX利用者懇談会総会 [新規計画を説明し、了承を得る。]
H10.1.16
物性研・高輝度光源計画推進委員会計画 [変更の経緯及び新規計画の内容を説明。新規計画を推進することを承認。]
H10.1.28
加速器科学研究センターに関する検討小委員会 [新規計画を承認]
H10.3.5
加速器科学研究センターに関する懇談会 [検討小委員会報告を了承]
H10.3.17
東大評議会 [懇談会報告を了承]
H10.7 1GeV計画の概算要求 [新規計画の整備と高輝度光源研究センターの設置]
以上の経緯で生まれた新規「1GeV計画」は,従来の軟X線・真空紫外領域をカバーする高輝度光源設備を中心としたものから、世界各国の研究状況、国内の整備状況をも考慮し、緊急度の最も高い、真空紫外領域に重点をおいたものである。とくに真空紫外領域でのスペクトル分光に大きな威力を発揮することが期待され、従来の固体物性研究の対象はもとより、より高次の構造を持った分子性結晶や超分子・高分子での電子構造、又化学反応などそのエネルギーに特徴的な魅力的な新領域が開拓されよう。エネルギー的には、1997年に完成し構造解析に威力を発揮する硬X線を中心とした高輝度光源施設SPring-8とは相補的である。
このような経緯をたどってきた本センター計画は東京大学全体の計画であり、その計画の推進部局として物性研究所が位置付けられている。実際、H10.1の検討小委の報告書のまとめには「本センターが全国共同利用機関であることの意義に鑑み、所要人員について全学的支援と学外からの支援を引き続き強く要望する」とある。
本計画を推進する上で一番大切なことは、「放射光科学」にある加速器・分光器・ユーザーという3つの異なった「文化」を背景に持つ研究者が、相互に違いを認識・評価すると同時に、その異文化間で突っ込んだ明快なすっきりした議論が行われ、それに基づいて全国的な十分な相互理解が達成されるということであろう。
わが国の放射光科学関係者が、その長年の夢の実現に向かって、今どのようにして、communityとしてのidentityを発揮するか、を周囲は固唾をのんで見守っている。この点で、3月に全国で活躍するVUV・SX高輝度光源利用者懇談会幹事および有志による声明文が出されたのは大変心強い。これを契機に、関係者全員による小異を捨てて一丸となった行動の展開を切望したい。このことは、放射光科学はもとより日本の基礎科学界全体にとっての重大関心事である。本計画推進委員会の委員長として私も責任の重さを痛感している。
Monday,10,May,1999