設計理念
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この加速器の設計理念は、最小予算で最高実験……ということの他に「非線形力に対する対称性の維持」です。具体的には、本来は円形で対称性がよく、そのおかげでよくまわるリングに対し、長直線部という異物を混入するとき、加速器中のビームに働く非線形力に関して異物を透明にし、異物混入後も非線形力に対しては対称性が完全に保たれるようにしようという試みです。(理想軌道上の理想運動量の粒子に対しては、完全に真の対称性が維持されますが、理想でない場合も或る程度の似非対称性が維持されていれば、それなりにまわるということを、これから述べたいと思います。)
6極磁石の運動方程式は以下のようになります。
ただし、
この式をじっと見つめると、という変換の他に、という変換に対しても、式が不変であることが分かります。
6極以外に非線形力が全く存在しないとすると、6極が存在しない領域では粒子の運動は完全に線形であり、その場合、粒子が軌道上のある場所から別の場所へ進むと、1次変換を施されたのと等価であることが示されます。参考として少し詳しく言うと、そういう1次変換を「輸送行列(transfer
matrix)」といい、という風に行列を使って表します。6極磁石にとって「見えない」1次変換であるやを作る為の条件は、
 
       その領域に非線形要素が存在しないこと
       領域の両端の Twiss Parameter(αβγηη') が等しいこと
       その領域の振動数の進み
が1(前者の変換(恒等変換)の場合)または0.5(後者の変換の場合)で
あること
 
とまとめられます。それらを満たす領域を粒子が通ると、運動方程式の解として、上の変換が得られるのです。
ということで、長直線部に6極が存在せず、その振動数の進みが1または0.5ならば、6極は長直線部が見えないので、24回対称と全く同じになる、ということが言えます。実際のリングでは、長直線部では分散関数を消さないといけません。これは、長直線部の直前のノーマルセル(半分)を改変することによって、可能になりますが、そうしてしまうと、元々の24回対称が崩れてしまい、長直線部の振動数進みを透明にしても、あまり意味が無くなってしまいます。そこで、改変するのは長直線部直前の6極以降にして、長直線部と改変したノーマルセルを合わせて振動数の進みを、「改変していないノーマルセルの分+透明の分」としてやることで、ノーマルセルの改変を長直線部で吸収してやります。それで、分散関数が消えていながら透明性が保てる長直線部が達成されたのです。
<<若干の大雑把な解析>>
完全に24回対称なリングと、透明にした長直線部込みのトラックフィールド型のリングとの間の差違は、運動量がずれた粒子に顕著に現れます。
24回対称のリング
運動量がずれても → 24回対称性は不変である
トラックフィールド型のリング
運動量がずれると → 24回対称性が崩れる + 透明性が崩れる
例えば、24回対称のリングの場合、運動量が設計値の粒子のOPTICSは以下のようになります。
また、運動量がずれた場合、例えば dP = +3% の場合は以下のようになります。
見て分かるとおり、ほとんど変化しません。対称性も24回対称のままです。変化しているのはリングのチューン(1周の振動数)で、これは(任意の場所の)ノーマルセルのチューンを24倍したものに厳密に等しくなり、以下のようになります。
24回対称のリングをまわる粒子にとって、運動量のズレは、振動数のズレだけとみてよいのです。(対称性は変わりません、ということが言いたい……。) ダイナミックアパーチャーは以下のようになります。
トラックフィールド型リングの場合、運動量が設計値の粒子のOPTICSは次のようになります。
また、運動量がずれた場合、例えば dP = +3% の場合は以下のようになります。
見て分かるとおり、大きく ^_^; 変化しています。ノーマルセルの対称性が24回対称から崩れてしまっています。
リング1周の振動数(チューン)は以下のようになります。
1、ノーマルセルが対称性を保っている
2、直線部の透明チューンが大きくずれていない
という2つの条件が満たされていればよくまわるということが分かります。例えば、ノーマルセルの対称性は±3.5%程度が限界であることが分かりますし、また、垂直方向のチューンの分散が運動量に対して正負対称ではなく、負の運動量を持つ場合の方がガタついており、それが原因で負の運動量を持つ粒子はあまりよくまわっていないと言えます。運動量がずれた粒子が設計運動量の粒子に比べてまわらない理由は、ノーマルセルがガタつくことと、直線部が透明でなくなることです。この2つは結局、
1、チューンシフトが大きくなること
2、共鳴が効きやすくなること
という2つの影響をもたらします。主に、ノーマルセルのがたつきが前者、透明チューンのズレが後者に効きます。前者の影響は大きくなるにつれて、じわじわとアパーチャーを狭める(整数共鳴などに小さなズレでも当たるようになるため)のに対し、後者は突然現れます。というのは、ダイナミックアパーチャーサーベイにおけるスリット(初期振幅がそこにある粒子だけがまわらない、その粒子よりも小さい振幅や大きい振幅でトラッキングを始めた粒子はまわっているにも関わらず。)等を引き起こすのです。
挿入光源を入れた場合や、誤差の効果も同様に扱える(目安となる)ことが分かっています。例えば、上下左右非対称に挿入光源を入れた場合、運動量がずれた粒子のOPTICSでノーマルセルは全て異なってしまいますが、よくまわるものについてはその差が小さく、透明チューンもずれておりません。しかし、まわらなくなってしまうものについては、(主に)透明チューンのズレが大きくなっているのです。
しかしながら、どうすればノーマルセルのがたつきを抑え、透明チューンを保てるのか、という逆の問題は、未だ解けていません。(リニアオプティックスの問題であるにも関わらず。) 1つの目安としては、長直線部の色収差が小さいことが目安にはなりますが、小さい全てのOPTICSが必ずまわるとは言い切れない状況です。