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photo of iNSE

中性子スピンエコー分光器 iNSE

試料に中性子ビームを当てて散乱された中性子の方向や速度変化を調べることで,試料の原子・分子の構造や運動情報を調べることができます. 研究用原子炉 JRR-3 ビームホールに設置された中性子スピンエコー分光器 iNSE は 数ナノから数100ナノメートルの構造におけるナノ秒オーダーのダイナミクスの観察が可能な中性子散乱装置です.

News

2023 Aug 21
2023年度JRR-3運転開始
2023 Apr 01
iNSE Web サイト更新
2022 Dec 24
2022年度JRR-3運転サイクル終了

装置仕様 Specification

模式図

schematic diagram of iNSE

諸元

Beam port:
Cold neutron guide C2-3-1
Monochromatization:
Δλ/λ = 10 to 20 % by a neutron velocity selector
Beam size:
4 cm (height) x 2 cm (width)
Polarization:
> 96 % by m=2.5 magnetic supermirror bender
Wavelength range:
4 < λ < 15 Å
Q range:
0.019 < Q < 1.5 Å-1
  in standard setup:
0.03 < Q < 0.2 Å-1
Fourier time range:
0.02 < τ < 141 ns
  in standard setup:
0.16 < τ < 50 ns
Precession coil length:
2.6 m
Max. field integral BL:
0.22 T m
Analyzer:
30x30 cm2 multi channel magnetic supermirror
Detector:
32x32 cm2 3He multi wire detector

Q-t range

Q-time range

現在装置コミッショニング中のため,実際に利用できる Q-t 領域は装置責任者(小田, email: oda _at_mark_ issp.u-tokyo.ac.jp )までお問合せください. 2023年度では 0.03 < Q < 0.2 Å-1, 0.1 < τ < 20 ns の測定範囲を予定しています.

標準試料セル

栓付き角型石英セル.試料部厚み: t = 4 mm,試料体積:4 mL,本体内寸:w22 x h45 x t 4 mm.この他厚み t = 2 mm も有り.材質:(本体部分)合成石英ガラス

quartz cell with cap

参考文献

成果 Publications

ISSP-NSL Activity Database

課題申請・問合わせ Contact

2021年7月にJRR-3の共同利用運転が再開され,iNSE は2021年および2022年の運転サイクルで装置復旧作業,コミッショニングを進めてきました.2023年度前半も引き続きコミッショニングを行い,後半の運転サイクルでは6件の一般課題を実施予定です. 装置の状況や利用方法については装置責任者の東大物性研 小田 (oda _at_mark_ issp.u-tokyo.ac.jp) までお問い合わせください.課題申請や実験前の手続きについては中性子科学研究施設Webサイト ISSP NSL をご参照ください.

課題番号 2023年度採択課題
23577 中性子スピンエコーによるマルチドメインタンパク質のドメイン運動の観測に向けて
23581 界面活性剤が誘起する液-液相分離のメカニズムの解明
23576 Elaborating the nano spatiotemporal dynamics of carrageenan gels and their mixtures using neutron spin echo
23580 塩が誘起する有機溶媒水溶液の2次元流体的な臨界挙動
23578 中性子スピンエコー法による環動高分子/クレイナノコンポジット系のダイナミクス研究
23579 勾配磁場RFを用いた広帯域波長対応π/2スピンフリッパーの開発
23405 iNSE(中性子スピンエコー分光器)IRT課題

過去の採択課題の例

2010年度採択課題
ランダムコポリマーの動的静的構造因子の実験的検証
界面活性剤が誘起する液-液相分離のメカニズムの解明
F-アクチンの構造多形性と運動特性の相関
アミロイド線維形成初期過程中間体のダイナミクス
球状ミセルの静的および動的構造
リラクサーPMN-xPT の PNR における低エネルギーフォノンモードの研究
量子常誘電体 SrTiO3(STO16)の微小強誘電領域 における低エネルギーフォノンモードの探索
重合した二分子膜における膜の曲げ弾性率
脂質ナノディスクの構造とダイナミクス
Tetra-PEG ゲルコンフォメーションの濃度依存性
二次元三角格子反強磁性体 FeGa2S4 のスピンダ イナミクス
水/3 メチルピリジン混合系に対する圧力の効果
メゾ構造形成または圧力による臨界普遍性の破れ
重元素イオンを選択的に認識する有機配位子がつ くる逆ミセルの構造
温度変化によるアミド HFIP 水混合溶液の相分離
ベンゼン誘導体中におけるイミダゾリウム系イオ ン液体の会合体形成
b-ラクトグロブリンの熱変性に対するアルコール添加の影響
イオン液体中のナノスケール凝集体の集団的ダイ ナミクス
細胞培養足場材としてのポリビニルアルコールゲ ルの構造とダイナミクス
脂質積層膜におけるトレハロースと脂質のダイナ ミクス
photo of iNSE
iNSE photo taken on September 2021.

中性子スピンエコー分光法について NSE method

Neutron Spin Echo (NSE) 法は1972年に Mezei によって考案された方法で,中性子のスピン自由度を利用して物質内のエネルギー変化を観測する方法である.中性子散乱法としては最高のエネルギー分解能を持つこの方法は,翌1973年にはフランス ILL において装置の建設が開始され,1974年には世界最初のNSE装置が完成した.現在では フランス ILL (IN15 , WASP), ドイツ MLZ(J-NSE PhoenixRESEDA(共鳴型)), アメリカ NIST, ORNL, 日本 J-PARC(共鳴型),そしてJRR-3 では iNSE の 8 台程度が世界で稼働している.

中性子スピンエコー装置の原理を簡単に説明する.スピンの向きがそろった中性子ビームを磁場に入れると、スピンの向きに垂直な磁場の周りでスピンの向きが回転する(Larmor歳差).スピンの歳差角は φ = γ BL/v (γ: 中性子の磁気回転比, B: 磁場強さ,L: 飛行距離,v: 中性子速度)で与えられる. ある距離 L 進んだ時点で磁場の向きを逆にすると,スピンの向きは逆回転して L だけ進んだところではスピンの向きは元通りになる.実際の装置では磁場の向きを逆にする代わりに真ん中でスピンの向きを反転させる. ここで重要なのは,前半と後半の磁場積分 BL が同じであれば中性子の速度に依存せずにスピンの向きの再収束(スピンエコー)が起るということである.

Interactive figure of spin precession (fast neutron case).
速い中性子の場合
Interactive figure of spin precession (slow neutron case).
遅い中性子の場合

試料での散乱によって中性子のエネルギー(速度)が変化すると,スピンの向きは元通りにならずに最初の向きからずれる.後半の磁場の後ろでは,スピンの向きを選択して中性子の検出をしており,スピンの向きが最初の向きからずれた場合は検出される中性子の数が減る.前半と後半の磁場の差をすこしずつ変えながら中性子強度を測定すると,スピンエコーシグナルと呼ばれる中性子の強度変化が得られる(下図).エコーシグナルの振幅の減少度合が試料での中性子の速度変化を反映しており,これを解析することで物質内部のダイナミクスの情報を得ることができる.スピンエコー法で測定される量は,動的構造因子 S(Q, ΔE) をエネルギーについてフーリエ変換した中間散乱関数 I(Q, τ) である.測定できる相関時間 (Fourier time) τ が長いほど高エネルギー分解能に対応し,τ は磁場積分と入射中性子波長の3乗に比例する.

spin echo signal
中性子スピンエコーシグナル

参考文献

Practical info

中性子の波長・速さ・エネルギーの関係