中性子科学研究施設へようこそ

Neutron, a nano-probe in materials science

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東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設

since 1993

 春暖の候、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
 さて、このたび、4月1日付けで東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設長を拝命しました。
施設の前身である「東大物性研究所附属中性子散乱研究施設」は1993年4月、中性子散乱研究の大規模共同利用体制の確立と研究分野・共同利用者層の拡大を目的として、東大物性研の中性子回折物性部門を改組・拡充して創設されました。以来、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)に設置された研究用原子炉JRR3を使った全国共同利用を展開し、全国の大学研究者に中性子散乱研究の場を提供するとともに多くの中性子科学者を育んできました。その活動において特筆すべきは、毎年のべ5000人もの研究者に対し、実験支援はもとより、旅費の支給、宿舎の提供など、世界的に見てもユニークな共同利用研活動をおこなってきたことです。共同利用を開始してから10年経った2003年には、コミュニティからの要望に応える形で「東大物性研究所附属中性子科学研究施設」と改称し、ますます幅広い分野の研究者に対し共同研究の場を提供し、また施設としての独自研究を展開して現在に至っています。
 中性子散乱の歴史は、1946年にShullらが初めてNaClの中性子粉末結晶回折像を観測したことに始まります。その後、1960年にはBrockhouse(Shullとともに1994年にノーベル物理学賞受賞)による3軸中性子分光器の開発、1970年代のScheltenらによる高分子の中性子小角散乱研究やMezeiによって開始された中性子スピンエコー法など、中性子散乱・中性子スペクトロスコピーは飛躍的な発展を遂げて現在に至っています。実験室レベルで簡単に取り出すことができるX線に比べて、中性子線は原子炉やパルス中性子源という巨大設備を必要とするにもかかわらず、物質透過能に優れ、結晶構造のみならず磁気構造の解析、同位体置換による散乱コントラストを使ったソフトマターや蛋白質の構造解析などを可能にするすぐれた研究手段です。
 今世紀に入り、中性子散乱による物性研究の舞台は、これまで主役であった研究用原子炉から研究用原子炉とパルス中性子源の共存という新しい時代へと移り変わりつつありますが、中性子科学研究施設は、これまで以上にコミュニティおよび他機関との連携をとりながら、中性子散乱全国共同利用の責任推進機関として共同利用研究を支援し、中性子科学者の育成していきます。
 皆様のご愛顧とご支援を心よりお願いします。

東京大学物性研究所
附属中性子科学研究施設長
柴山充弘
平成21年4月1日