all-outスピン構造
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「磁石でない磁気記録」を可能にする新しい電子スピン配列を発見 (2012/5/25)

-少しだけ詳しい解説-

パイロクロア酸化物は、Cd2Os2O6O'といった組成で表される多様な物質群を背景とする鉱物の一種です。結晶構造は、Cd-O'とOs-Oネットワークそれぞれを基本とする非常に対称性の高いパイロクロア格子が入れ子状となって形成されています(右上図)。この美しい構造を有するパイロクロア格子には、四面体上のスピン競合状態(スピンフラストレーション)、高対称性によるバンドの高縮重度といった特徴が存在する大変興味深い系です。このため、国内外の多くの研究者によって、多くの物質で多様な実験がなされてきました。我々は、このパイロクロア酸化物における金属絶縁体転移全般を研究する過程で、38年前に合成されたCd2Os2O7という物質に注目しました。なぜなら金属絶縁体転移と同時に反強磁性転移も起こすのですが、そのスピン配列がわかっていなかったために、転移機構が(提案はされていましたが)よくわかていなかったのです。この起源を探る第一段階としてスピン配列を明らかにするという目標を立て、我々は、播磨に設置されているSPring-8という放射光施設の極めて強いX線を用いて実験を行いました。この光を用いると通常は極めて弱いX線での磁気散乱を観測することができます。その結果、通常磁気散乱の実験で用いる中性子線回折では観測できなかった磁気ピークを観測し、いくつかの考察を経て右下図のようなスピン配列を導き出しました。これは、磁性スピンを担っているOs原子の四面体を基本単位として、中心から見てスピンが全て外を向く(A:all-out)か内を向くか(B:all-in)しています。我々は、このような四面体上の磁気秩序をtetrahedral magnetic orderと総称し、また、今回のA-Bがペアになった反強的四面体磁気秩序をTetramagnetismと名付けました。マイナーケースではありますが、強磁性、反強磁性、らせん磁性に次ぐテトラ磁性といえるかもしれません。A、B共に四面体単位でモーメントがゼロ(つまり磁石でない)で、AとBという向きが異なる単位を持つことから、「磁石でない磁気記録」を可能にするといえるかもしれません。記録と読み出しは、未来の人が考えてくれるでしょう。興味を持っていただけた方は、原著論文をあたっていただけると嬉しいです。現在、このスピン配列をもとに絶縁化転移の起源を考察中です。今お話ししたのはバルクの性質ですが、実は、表面だけ強磁性金属であるということを示唆するデータがあり、次の展開もおもしろそうです。

この研究成果は、たくさんの方々との共同研究によって実現しました。

物性研究所 大串さん(放射光実験、解析、議論)、山内さん、瀧川先生、広井先生(議論)
広島大学 長谷川さん、宇田川先生(Raman)
神戸大学 播磨先生 (議論とtetramagnetismの提唱)
JASRI 杉本さん(放射光実験)
理研SPring-8 大隅さん、竹下さん、徳田さん、"有馬先生"、高田先生(放射光実験、議論、多様なアイデア)

この場をお借りして感謝申し上げます。

参考文献等
Phys. Rev. Lett. 108 (2012) 247205. (DOI:10.1103/PhysRevLett.108.247205)
物性研ニュース(Todai Researchにも掲載)
SPring-8プレスリリース
日刊工業新聞
科学新聞