ランタンフェリ赤坂石&ランタンフェリアンドロス石

 

No. IMA2013-126 ランタンフェリ赤坂石 / Ferriakasakaite-(La)
No. IMA2013-127 ランタンフェリアンドロス石 / Ferriandorosite-(La)

CaLaFe3+AlMn2+(Si2O7)(SiO4)O(OH), Monoclinic / Ferriakasakaite-(La)
Mn2+LaFe3+AlMn2+(Si2O7)(SiO4)O(OH) , Monoclinic / Ferriandorosite-(La)

Epidote supergroup

三重県伊勢市

Nagashima M., Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. (2015) Ferriakasakaite-(La) and ferriandrosite-(La): new epidote-supergroup minerals from Ise, Mie Prefecture, Japan. Mineralogical Magazine, 79, 735-753. DOI: 10.1180/minmag.2015.079.3.16.


Fig. 1. 黒色柱状結晶。白は菱マンガン鉱,黄色はネオトス石。この産地の褐簾石亜族の新鉱物は見た目では区別できません。


Fig. 2. 黒色柱状結晶の集合。これはベメント石に埋まっている。こういった集合体を調べてみると一個ずつが別々の新鉱物ということもある。


Fig. 3. 今回の新鉱物は褐簾石亜族に分類される。褐色の簾のような石,薄い結晶だと褐色に見える。

またもや三重県伊勢市からの新鉱物,「ランタンフェリ赤坂石 / Ferriakasakaite-(La)」と「ランタンフェリアンドロス石 / Ferriandrosite-(La)」である。今回も山口大学からプレスリリースを出してもらったのでそちらもご覧ください。このページはいつものとおり写真&雑記です。今回の新鉱物が承認されたのは2月3日。その日は私自身が研究代表を務めた新鉱物・伊予石&三崎石の承認通知も来ており,一日で4通も承認通知を受け取った。鬼は外,福は内。

それにしてもこの産地(矢持町菖蒲)からはよく新鉱物が見つかる。今回のものは「伊勢鉱」,「ランタンバナジウム褐簾石」に続いて第3・第4の新鉱物となった。ランタンバナジウム褐簾石の発見後,もう少し研究用試料を確保したくて同様な外観を持つ鉱物を調べていたら,さらに二つも新鉱物が見つかった。そして伊勢市の別の産地からは「今吉石」という新鉱物も見いだしているので,ほんの3年くらいで合計5種もの新鉱物が伊勢市から発見(承認)されたことになる。承認された順で並べるとこうなる→「伊勢鉱」「ランタンバナジウム褐簾石」「今吉石」「ランタンフェリ赤坂石」「ランタンフェリアンドロス石」。これだけあるともはや新鉱物は伊勢の名物と言っても良いだろう。そしてこれらすべてが一人の愛石家・稲葉幸郎による発見から始まっている。縁あって私は「伊勢鉱」と「今吉石」の研究代表を務めさせてもらい,「ランタンバナジウム褐簾石」「ランタンフェリ赤坂石」「ランタンフェリアンドロス石」は緑簾石族全般に詳しい&研究実績のある山口大・永嶌真理子さんに仕切ってもらった。その経緯は「ランタンバナジウム褐簾石」のページも参照してください。

今回の新鉱物たちと前に見つけているランタンバナジウム褐簾石は,緑簾石族の褐簾石亜族というものに分類される。鉱物とは化学組成と結晶構造で定義される天然の固体物質のことで,化学組成もしくは結晶構造が新規のものなら新鉱物となる。そして今回みつけた新鉱物は結晶構造が同一で,化学組成がそれぞれ違っている。こういった集まりを「族 / group」という。その中で特定の化学組成を持つものがさらに「亜族 / subgroup」として分類される。その「族」や「亜族」の中身や説明はそれだけで一つの論文になっているくらい膨大なのだが,せっかくなので褐簾石亜族のさらにその一部に限定して取り上げてみよう。ただこれだけでもちょっと長くなる。

ではひとまず下の表1を見てほしい。横並びのA1~M3席というのは結晶構造中の元素の存在する席で,その下にそれぞれの新鉱物がもつ元素を記した。
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表1.褐簾石亜族鉱物の結晶学的席と元素

 学名  和名 A1席 A2席 M1席 M2席 M3席
Ferriakasakaite-(REE) REEフェリ赤坂石 Ca REE Fe3+ Al Mn2+
Ferriandorosite-(REE) REEフェリアンドロス石 Mn2+ REE Fe3+ Al Mn2+
Vanadoallanite-(REE) REEバナジウム褐簾石 Ca REE V3+ Al Fe2+

 

まず緑簾石族というのはA1A2M1M2M3(Si2O7)(SiO4)O(OH)という化学組成をもつ鉱物たちのことを言う。A1,A2,M1,M2,M3という席にいろんな元素が入る。そして,A1に二価陽イオン,A2席にレアアース(REE),M1とM2席に三価陽イオン,M3に二価陽イオンが入るものを褐簾石亜族という。さらにA1・M2・M3席の元素の組み合わせによって基準となる名前(ルートネーム)が定義される。そして褐簾石亜族の学名は「化学組成ルートネーム-(REE)」となっていることを念頭に,まずはルートネームの命名を説明しよう。A1・M2・M3がカルシウム(Ca)・アルミニウム(Al)・マンガン(Mn2+)だとルートネームは「赤坂石/akasakaite」となる。Mn・Al・Mnならルートネームは「アンドロス石/andorosite」で,Ca・Al・二価鉄(Fe2+)なら「褐簾石/allanite」というルートネーム。もしMn2+・Al・Fe2+というものを見つけたらそれは新しいルートネームをつけることができる。で,続き。そのあと「化学組成」の部分はM1席の元素種類で決まる。M1席には3価の陽イオンが入り,三価鉄(Fe3+)なら「フェリ/ferri」,バナジウム(V)なら「バナジウム/vanado」が「化学組成」の部分につく。もしM1席がアルミニウム(Al)なら何もつかない。そして最後に,A2席のレアアースの種類は「―(REE)」をルートネームの後ろにつける。ランタン(La)なら「-(La)」,セリウム(Ce)なら「-(Ce)」がルートネームの後ろにくっつく(サフィックスという)。このように褐簾石亜族の学名は「化学組成ルートネーム-(REE)という順序になっている。

ただし,和名にするときは「REE化学組成ルートネームという順番にする。その理由は学名の直訳だと収まりが悪いから。たとえば学名の「Ferriakasakaite-(La)」を直訳すると「フェリ赤坂石ランタン」となるが,なんだか鉱物っぽくない。やっぱり鉱物名なんだから最後は「石」で締めたい。ということで,「Ferriakasakaite-(La)」というのは「ランタンフェリ赤坂石」という和名になる,というか,そうします。

さて,ここで「ランタンフェリ赤坂石」の元になった「赤坂」についてちょっと述べておこう。この名前は島根大学教授の赤坂正秀に因んでいる。赤坂先生の業績はたくさんあるが,今回の新鉱物と関係する業績を紹介すると,緑簾石族を再定義しようという国際作業部会が立ち上がった際に,その研究実績を買われて赤坂先生は唯一の日本人研究者として参画している。となると日本で緑簾石族の新鉱物が見つかった場合は赤坂先生の名前はルートネームの有力な候補となるだろう。また赤坂先生は今回の筆頭研究者・永嶌さんが学位を取得したときの指導教員で,永嶌さんが緑簾石族マニアになったのは赤坂先生のせい(おかげ)でもある。こうなると永嶌さんが研究代表を務める国産の緑簾石族の新鉱物,その名前には「赤坂石」しか考えられない新鉱物には自ら発見に関わったものに自分の名前をつけることはできないというルールがあるが,師匠の名前をつけることには何ら制約はない。今回の新鉱物の命名は弟子から師匠への恩返しなのだ。

せっかくなのでもう一つの新鉱物「ランタンフェリアンドロス石」の元になった「アンドロス」についてもふれておこう。ルートネーム「アンドロス石」は,エーゲ海キクラデス諸島(ギリシャ)で2番目に大きな島,「アンドロス島」に由来している。そのアンドロス島の最も高い山(Mt. Petalon)にマンガン鉱石を目的とした試掘後があって,そこから産出した新鉱物にルートネーム「アンドロス石」が命名された。この鉱物は緑簾石族命名規約の改定を経て,「ランタンマンガニアンドロス石 / Manganiandrosite-(La)」という正式名称となる。そのフェリ(Fe3+)置換体に相当するのが,今回,我々の見つけた新鉱物「ランタンフェリアンドロス石」である。

さあいつものように鑑定のポイントを紹介しよう。といってもほとんどはランタンバナジウム褐簾石のときに書いてしまった。今回はその補足&訂正になる。まず,この産地に出る褐簾石亜族の鉱物には上に紹介した三種の新鉱物の他にランタンフェリ褐簾石がある(化学組成は上の説明から考えてみよう)。そしてこれら計四種は残念ながら見た目で区別することはできない。そしてマニアにはさらに残念なことに産状からの鑑定もあまり当てにならなくなった。ランタンバナジウム褐簾石はテフロ石に伴われるものだけしか見つかっていないというのは確かなのだが,あとの三種は困ったことに,ベメント石,テフロ石,菱マンガン鉱脈中であればどこにでも顔を出す。さらには数ミリ四方の小さな領域にランタンフェリ褐簾石・ランタンフェリ赤坂石・ランタンフェリアンドロス石の三種がいることは全然珍しくはない。見た目はおろか産状でさえ区別できないことになった。もはや全部の鉱物種を書いたラベルをつくれば良いだろう,きっとそれは正解だ。全体としてはランタンフェリ褐簾石≧ランタンフェリ赤坂石>ランタンフェリアンドロス石 >>> ランタンバナジウム褐簾石である。

この産地に限らず西南日本秩父帯に胚胎される鉄マンガン鉱床の起源は過去の海洋底の堆積物である。そして,その堆積物は太平洋の深海底にある中央海嶺の火成活動に伴って噴出する熱水が関係している。おおざっぱなストーリーは次。①中央海嶺の火成活動により噴出した熱水が海水中に拡散→②熱水に含まれる鉄・マンガンが酸化され懸濁物質になる→③懸濁物質が海水中に溶け込んでいるレアアース&レアメタルを吸着→④深海底に堆積→⑤プレート運動で日本側に移動→⑥ちょっと変成を受けた後に地上に上がり(付加体),これが秩父帯中の鉄マンガン鉱床となる。こんな流れで,中央海嶺から熱水が噴き出して現在に至るまでのタイムスケールは数億年。要は伊勢の鉄マンガン鉱床中のレアアースやレアメタルは,もともとは太古の海洋に溶け込んでいたものだ(と考えている)。そういえば以前に「ランタンバナジウム褐簾石」のバナジウムの起源について,「海底に住んでいるホヤが体内にバナジウムを蓄積するからそれである」というコメントをもらったことがある。無邪気な発想ではあるがたぶんそれは無い。

 Posted by at 8:47 AM

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