今吉石

 

No. IMA2013-069 

今吉石 / Imayoshiite

Ca3Al(CO3)[B(OH)4](OH)6・12H2O

Hexagonal

Ettringite group

三重県伊勢市

Nishio-Hamane D., Ohnishi M., Momma K., Shimobayashi N., Miyawaki R., Minakawa T., Inaba S. (2015) Imayoshiite, Ca3Al(CO3)[B(OH)4](OH)6•12H2O, a new mineral of ettringite group from Ise City, Mie Prefecture, Japan., Mineralogical Magazine, 79, 413-423.


Fig.1.中央付近,グズっとしたところが今吉石。


Fig.2.今吉石の拡大写真1. 透明感のある絹糸光沢の繊維状集合が本鉱の代表的な産状。


Fig.3.今吉石の拡大写真2. 一部がまれに透明な塊状となります。

三重県伊勢市からの新鉱物,今吉石/Imayoshiiteである。鉱物コレクター・今吉隆治(1905-1984)にちなんで命名されたこの鉱物は弟子(稲葉)から師匠への贈り物。それにしても昨年以降,伊勢市からは新鉱物の発見(承認)が相次いで,式年遷宮の日に承認された今吉石は伊勢鉱・ランタンバナジウム褐簾石に続いて3種目となる。いずれも超稀産の3種なので三種の神器にあやかって宣伝したいところだが,今後も続くかな?

さて,新種を発見したら命名権は発見者にあるというのはなんとなく誰でも理解できるだろう。生物の新種の学名なんかでは誰が発見したかがわかるように,学名の一番最後に発見者の名前が入っていることが多い。でも鉱物の場合は「自分が発見した新鉱物には自分の名前をつけることができない」 というルールがある。ということで,新鉱物はたいていは地名とか鉱物学に関連する人物の名前にちなんで命名される。地名の場合はシンプルにその鉱物が発見された鉱山・集落・市町村・県の名前というのが候補になるが,人名の場合は基本的には何らかの形での鉱物学へ貢献したこと,もしくは鉱物学と深く関わっていることが命名の理由となる。前者のケースだといわゆる研究者が行った仕事が該当し,後者だといろいろあるけど一つの関わり方として鉱物収集がある。そして今吉隆治(Takaharu Imayoshi)は間違いなく熱狂的な鉱物収集家の一人であった。それは亡くなるまでに集めた標本が一万点を越えていたというすさまじさからもわかるだろう。しかも佳品が多かったと聞いている。現在ではその多くは地質標本館へ収蔵されて研究のために有効に活用され,一部は展示で来館者の目を楽しませてくれる。まだ訪れたことはないが静岡県の奇石博物館には今吉隆治が最後まで手放さなかった秘蔵標本が展示されているらしい。そのうちこっそり行ってみよう。

前置きがちょっとズレたが,鉱物収集というのはたしかに個人の趣味として捉えられるものである。がしかし,鉱物収集は鉱物学との一つの重要な関わり方でもあって,それに突出した人物はやっぱり新鉱物名の候補となるのです。今回の新鉱物の名前を考える段になって,発見者の稲葉から提案された自らの師匠「今吉隆治」の名前は共著者みんなが納得のいくものであった。足立電気石のところでも紹介したが,日本では研究者ではない人物が鉱物名として採用されたのは,長島乙吉,櫻井欽一,益富寿之助,足立富男につづいて,今吉隆治が5人目となる。今後も鉱物収集家やローカルガイドは新鉱物名の候補となるだろう。立候補してみます?

この鉱物の発見はざっくり30年前にさかのぼる。稲葉が伊勢市山中の蛇紋岩地帯を探索中に見つけたもので,産状は蛇紋岩中のゼノリス(捕獲岩)。発見当初からエットリング石グループの一種だとは考えられてはいたのだが,試料が少ない上に当時では分析が難しくて,う~んという状態がそこからなんと30年。まあずっと検討してたわけではなくてそれはほとんどあきらめていた期間に等しいが,昨年(2012)の夏くらいからいろんな人に協力してもらい,ようやく新鉱物としてのデータがそろって今回の承認となった。

全体の産状は皆川ほか(1986)に詳しいのでそれを参考にしてもらいたいが,今吉石の母岩は蛇紋岩中の斑糲岩ペグマタイト質のゼノリスで斜方輝石や斜長石が粗粒化している。そして,今吉石は斜長石が熱水変質を受けた部分に産出する。要は真っ白でちょっとボロくなっている岩石の一部なのだが,今吉石は絹糸光沢を示す透明な繊維集合が脈状で産出する。稀には,その繊維状集合が六角形に配列することがある。また繊維状集合の一部では透明な塊状に粗粒化することもある。この岩石中で透明感のある結晶を形成するのは今吉石だけで,他の共生鉱物(加水石榴石,ゾノトラ石,トベルモリ石,バルトフォンテン石)はのぺっとした不透明白色塊の中にある。ごく一部に大江石がみられるが,これはちょっとパサっとした繊維状集合なのに対して今吉石は瑞々しい集合体なのでその違いはぱっと見で区別できる。それに今吉石は共生鉱物に比べて圧倒的に華奢でもろいので,これも鑑定ポイントである。いずれにしても今吉石は入っていればルーペが無くとも肉眼でも簡単に判別可能なのだが,一度は現物を見ておかないと初見での判別は難しいかもしれない。ところが今吉石を見る機会はそうそうやってこないと思う。と言うのも,産地には今吉石を含むゼノリスが極端に乏しい。Fig.1.を見ての通りの岩石を探せば良いのだが,これが無いんだな,ほんと~に無い,見事に無い,どうしようもない。あるのは霰石ばっかり。こうなるともはや肉眼鑑定以前の問題で今吉石のレアさは伊勢鉱の比でなどではない。写真をいくつか掲載しておくのでイメージをつかんでください。それにしても私の持っている試料はほとんど科博に収めたし,もっと写真をたくさん撮っておけば良かった。でもまあそのうち門馬くんがステキな写真を撮ってくれるだろう。あとは愛媛大と稲葉さんが所有しているものくらいだろうか。いずれにしても新産地が見つかるまでは今吉石は最も見かけることの少ない新鉱物になるかもしれない。

今吉石はエットリング石グループに所属している。2008年に岡山県布賀鉱山からエットリング石グループであるチャールズ石のCO2置換体という鉱物の報告があり,我々も今吉石の再検討を始めた当初はこいつとイコールかと思っていた。しかしそれらは似て非なるもので,今吉石と布賀産の鉱物とは全然違うものとわかった。なので先に書いておくが,混同しないようにしてください。さらについでに書いておくと,布賀の鉱物はとりあえずまだ何者でもない。「新鉱物に相当する化学組成を持つ鉱物が発見された」ということが論文で発表されたら,その場合は「Unnamed Mineral(名前がつけられない鉱物)」として認識される。実はこういうのは良くあるケースなのです。同じ産地もしくは別産地からこのUnnamed Mineralと同じものが発見されて,今度は詳細にデータが取得され新鉱物として申請されることがある。それが承認されると新鉱物となるが,調べてみた結果やっぱり違いましたということも多々あり,Unnamed Mineralはそのままということがかなり多い。そして残念ながら布賀の鉱物はいまのところ「Unnamed Mineral」のままとなっている。今後これが新鉱物となるかUnnamed Mineralのままでいるか,今後の推移を注意深く見ていこう。

 

 Posted by at 11:33 AM

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