ランタンピータース石

 

No. IMA2017-089 

ランタンピータース石 / Petersite-(La)

Cu6La(PO4)3(OH)6・3H2O

Hexagonal

Mixite group

三重県熊野市紀和町

Nishio-Hamane D., Ohnishi M., Shimobayashi N., Momma K., Miyawaki R., Inaba S. (2017) approved on December.

ランタンピータース石 / Petersite-(La)
写真1. 新鉱物、ランタンピータース石のタイプ標本。ウニのような放射状集合が特徴的。

三重県熊野市からの新鉱物「ランタンピータース石 / Petersite-(La)」。ミクサ石グループ(Mixite group)の一員で、レアアースのランタン(La)を主成分とする銅リン酸塩鉱物である。三重県というのは多くの鉱物産地がある割には新鉱物がなかなか見つからない、そんなことを言われていた時期がかつてあった。ところがこの10年ほどの期間で最も多くの新鉱物が発見された都道府県は三重県になる。2007-2017年の間で、今回のランタンピータース石を併せて9種の新鉱物が三重県から発見されている。潜在性はそもそも大きかったということだろう。

ランタンピータース石は二次鉱物というカテゴリーに分類される。二次鉱物というのはもとあった鉱物が環境の変化によってまた別の異なる鉱物になったものを指す。いろんな環境で様々な姿で出現するために人目を引くことも多く、全体的に色彩豊かであることから二次鉱物は鉱物愛好家には人気がある。ランタンピータース石は気に入ってもらえるだろうか。

今回は新鉱物が誕生するまでの過程を時系列で振り返ってみようと思う。私にとっての始まりはたしか2015年の秋頃だったと記憶している。愛媛大の皆川氏を経由して3点の試料を受け取った。それは今回の著者の一人である稲葉氏が皆川氏へ鑑定を依頼したが、皆川氏のところでは出来ないということで私に回ったきた(丸投げされた)話である。送られてきたブツは砂岩の空隙に淡緑色のほっそい針が不完全な放射状でパラパラ散らばっている標本であった(写真2)。

セリウムピータース石 / Petersite-(Ce)
写真2.皆川氏経由で送られてきた最初の標本。不完全な放射状集合で、結晶も非常に細かった。これはほとんどがセリウムピータース石であった。

結晶はとても細い上に脆く、さらには量が少ないので分析が難しい。それでも何とか分析してみると、「セリウムピータース石」と同定された。この産状でレアアースを主成分とするピータース石が出ることにまず驚いたが、その当時、セリウムピータース石はアメリカでほんの1年前に発見されたばかりの鉱物だった。これにも驚いた。皆川氏のもとへ最初に試料が渡ったのはさらに数年遡るということだったので、私のところへ来るのがもう少し早ければもしかしてと思ったが、まあしょうがない。2015年末頃には本邦初産、世界でも二番目のセリウムピータース石ということを稲葉氏に伝えた。

年が明けて2016年。その年の鉱物学会で「本邦初産のセリウムピータース石」を発表しようと考え、3月に現地調査をした。このあたりには砂岩と泥岩ばかりが分布しており、泥岩はたまに石炭を胚胎する。そういった堆積岩に熊野酸性岩類と呼ばれる火成岩がドカンと貫入し、硫化物を伴う熱水が発生したようだ。熱水が堆積岩を様々に貫き、大規模に発達した黄銅鉱・黄鉄鉱鉱床を採掘していたのが紀州鉱山になる。ところが紀州鉱山からみて北側に位置する河川は同様の地質ながらも一見して鉱石は見あたらず、不毛な砂岩と泥岩がただ転がっているばかりであった。それでもよーく見て歩くとたまにやたら錆びた石がみつかる。その本体はやっぱり砂岩・泥岩であるが、中に少量の黄銅鉱を含み、割ってみると青や緑色の二次鉱物が見えた(写真3)。自分で採集した石や以前に稲葉氏が採集した石なども持ち帰り、もう少し調べることにした。

河原の転石
写真3.新鉱物が見つかった河原の石。砂岩と泥岩ばかりだが、まれに黄銅鉱を含み、二次鉱物を伴う石が見つかる。そういった石の表面は例外なく褐色に錆びている。

当初は参考程度のつもりだったのでいくつか適当に結晶をピックアップして分析を始めた。そうした中でセリウムよりもランタンが多い試料があることに気付いた。実のところ最初の試料でもいくつかランタンが多い結晶はあったのだが、全体的にはセリウムのほうが多数派だったので、あまり重要視はしていなかった。ところが今回は明らかにランタンが多数派を占める試料が存在している。ランタンピータース石なら新鉱物になる。改めて試料とそのミリ単位の空隙の一つずつにも番号を振って、記録を取りながらさらに調べ始めた。「もしかしてランタンピータース石という新鉱物になるかも」という旨を稲葉氏に伝えたのは2016年の初夏だったと思う。そして鉱物学会への発表も見送り、調査に専念することにした。

期待が生まれたあと、時間はかかったがどうにかデータがそろった。申請書を提出したのは2017年の秋になる。そして2017年12月に承認通知を受け、ランタンピータース石が誕生した(写真4)。最初の試料を受け取った時から数えて2年あまりが経過していた。

ランタンピータース石 / Petersite-(La)
写真4.タイプ標本の写真。不完全な放射状集合には絹糸光沢がよく見える。クリソコラの上にランタンピータース石は産出する。

さて各論に入ろう。まずはピータース石。種類としてはランタンとセリウムに富む二種類があるが、共存することもあり見た目ではわからない。そのため見つけたらラベルは両方を記すことでよいだろう。ここではピータース石としての特徴を記す。ピータース石は黄緑色の六角柱状結晶が本来の姿であるが、あまりに細いのでルーペ程度では針状に見える。もしルーペでも六角が確認できたらそれは最上級の標本であろう。いずれにせよ結晶が放射状に集合し、ウニのようになっている状態が欠損のない完璧な姿である。しかし多くは不完全な集合体であり、ほうきのように見える集合も多いほか、数本の針が散らばっている貧弱な状態も見かける。それでも不完全な集合体では特徴的な絹糸光沢がむしろよく見える。半球状の集合体では中心と外側では色味が異なっているように見えるが、それは結晶の密度の違いであってモノは同じである。産状としてピータース石は例外なくクリソコラの上に生じる。下地となるクリソコラの厚みは様々だが、それを剥ぐと下には水晶がいることが多い。銅成分を溶かし込んだ液体が晶洞にとどまり、クリソコラを沈殿させ、最後にピータース石が生じたと思われる。同様の産状でアガード石、孔雀石、擬孔雀石、ブロシャン銅鉱も生じている。これらも写真を見ていこう。

アガード石」について。この鉱物はピータース石のヒ素置換体に相当し、ピータース石とは連続的に組成が変化する。多くの場合はアガード石側の組成にうっかり足を踏み込んだという結晶であり、そういったモノはピータース石と全く判別がつかないので肉眼鑑定ではどうにもならない。その一方でアガード石ばかりの晶洞も見つかっている。そのアガード石はピータース石に比べて緑色の質がやや異なる印象をうける(写真5)。産状や姿形は共通だが微妙な色加減は異なるので、両方をならべて比べると目の肥えた愛好家なら判別できるかもしれない。アガード石はランタンアガード石が見つかっているが、ピータース石に比べてアガード石だけの産出は例が少ないので調査はあまり進んでいない。また、観察した範囲内ではアガード石はこの産地で唯一の砒酸塩鉱物である。

ランタンアガード石 / Agardite-(La)
写真5.ランタンアガード石(写真幅約3ミリ)。ピータース石とはわずかな色味の違いしかない。並べて比べてもその差は微妙。非常に薄いがアガード石の下もやはりクリソコラ。

クリソコラ上にはピータース石(アガード石)と同じ産状で、似たような放射状集合で産出する紛らわしい鉱物がいる。本来なら真っ先に想定するありふれた二次鉱物だが、ピータース石を先に見ると思い浮かばない(写真6)。これは「孔雀石」である。ピータース石(アガード石)に比べると明らかに青みが強いが、野外においてルーペで観察するという状況で思いこみもあると初見で判別できなかった。ピータース石(アガード石)と並んで生じることもあり、それだと違いはまあわかる(写真7)。当たり前だが孔雀石の産出は多い。産出場所はクリソコラ上に限定されず、褐色にさびた空隙にクリソコラの下地なしに入っていることもある(写真8)。惑わされないように。

孔雀石 / Malachite
写真6.孔雀石。ピータース石やアガード石は色の系統が異なるが、形状はかなり似ている。ルーペではなかなか判別しづらい。特にクリソコラが下地になっている場合だと肉眼鑑定は難しい。

Malachite and petersite
写真7.孔雀石。中央にいる鉱物が孔雀石で、周りに散らばっている針が束になったような集合体はピータース石(アガード石)。並んで産出するとこれらはやっぱり違うものと認識できる。

Malachite
写真8.孔雀石。形と色はピータース石(アガード石)と非常に紛らわしいが、クリソコラの下地が全く無い産状で放射状になる鉱物は孔雀石と判断して差し支えない。

クリソコラの上には一見して濃緑色の皮膜に見える部分が存在することがある。それを拡大して見ると実体は透明感のある球形の集合で、孔雀石を伴っていることが多い(写真9)。これは「擬孔雀石」であった。擬孔雀石は銅のリン酸塩鉱物なので組成的にピータース石に近いと言えるのだが、共存する例は少なく、一見して被膜に見える擬孔雀石にピータース石が伴われる試料はまだ見つけていない。擬孔雀石とピータース石が共存する場合は、ピータース石はかなり貧弱であり、そのとき擬孔雀石自体は被膜様のモノよりもちょっと大きな球になっており色味も異なっている(写真10)。

擬孔雀石 / Pseudomalachite
写真9.擬孔雀石。透明感のある濃緑色の小さな球。孔雀石(左上と右下の淡緑色部)を伴うことが多い。このタイプの擬孔雀石にはピータース石はこないようだ。下地は厚めのクリソコラ。

Pseudomalachite and petersite
写真10.擬孔雀石(濃緑色球状)とピータース石(黄緑色針状結晶)。このタイプの擬孔雀石にはピータース石が伴われることがある。

また、クリソコラ上には「ブロシャン銅鉱」も見つかった(写真11)。透明感のある濃緑色の結晶で、やはり放射状に成長している。板状結晶であることから、ピータース石(アガード石)との判別は比較的容易だろう。硫酸塩鉱物のブロシャン銅鉱が鎮座する晶洞ではピータース石(アガード石)は見つからない。

ブロシャン銅鉱 / Brochantite
写真11.ブロシャン銅鉱。透明感のある濃緑色の結晶で、ブロシャン銅鉱としてはわりと普通の姿。ピータース石(アガード石)との判別は難しくない。

クリソコラを伴わない産状の二次鉱物では「緑鉛鉱」が見つかっている。褐色に錆びた晶洞に六角柱状の結晶として産出する(写真12)。この緑鉛鉱は黄色の透明結晶であった。緑鉛鉱を産出する石は表面も内部もただひたすら褐色であり、銅の二次鉱物を伴わない。このタイプの石には白色の塊状の部分もあり、それは燐灰石や石英であった。

緑鉛鉱 / Pyromorphite
写真12.緑鉛鉱。褐色に錆びた空隙に黄色透明結晶として産出する。

目立った二次鉱物に関してはおおむねを述べたので、続いて野外に転がっている石の特徴をまとめておこう。産地の河原に転がっている石は灰色の砂岩・泥岩ばかり。これらを叩いても鉱物は基本的には何も出てこない。ノジュールが出てくることがあるが中心には何も残っていなかった。また小さい石炭を層やレンズで含む泥岩がそれなりに見つかるので、モノによっては標本になるかもしれない。二次鉱物を探すなら褐色に変化した転石が目印になる。つるとしたモノはダメでカラミのことがある。空隙がありザラついた印象の石がよい。そして青い二次鉱物が表面にまで生じている例は案外少ないので、とりあえず割ってみるとことが肝要になる。一目見て水晶を伴いクリソコラがみえるようならキープ。ここではクリソコラを見つけることが大事。こういった石は大小様々な晶洞をもつので、慎重にバラして確認するとよいだろう。そのどこかに新鉱物がいる可能性がある。また全体の産状を見るに、転石となってから二次鉱物が生成したわけではないだろう。すでに二次鉱物が生じている露頭があって、そこから転がってきたという印象を受ける。まだその露頭にはたどり付いていないが、あんがい近くにあるのかもしれない。

この産地からは以前に「ザレシ石」が見つかったという話を聞いた。ザレシ石はピータース石やアガード石と同じくミクス石グループの一員で、ミクス石グループの鉱物たちはどれも似たような見た目になる。そのため、分析を用いない鑑定では産状からその種類を推定するしかない。そして今回の産状ならレアアースという発想は生まれないので、レアアースを含まず、カルシウムと砒素を主成分とするザレシ石という鑑定は合理的である。それでも今回調べた範囲でザレシ石は見つかっていない。個人的にはそのザレシ石は実はピータース石の可能性が高いと思っている。何かの即売会でも置いてあったと聞いているので、すでに持っている方もいることだろう。それはラベルを書き換えても良いだろう。繰り返すが今回の産状でレアアースを主成分とするピータース石(アガード石)は予想外である。そしてこれはいつものことなのだ。新鉱物は予想外のところから見つかる

 Posted by at 7:57 PM

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