岩手石

 

No. IMA2013-034 岩手石 / Iwateite

Na2BaMn(PO4)2, trigonal

Known synthetic compound

岩手県田野畑村田野畑鉱山

Nishio-Hamane D., Minakawa T., Okada H. (2014) Iwateite, Na2BaMn(PO4)2, a new mineral from the Tanohata mine, Iwate Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 109, 34-37.


Fig. 1. 田野畑鉱山松前沢鉱床の典型的な鉱石。だが,岩手石はこの手の鉱石に含まれることは少ない(希にはある)。黒;ブラウン鉱,ピンク;バラ輝石,褐色;角閃石,くすんだオレンジ;セラン石+ソーダ南部石。


Fig. 2. 岩手石を比較的よく含む鉱石(鉱物)。全体がセラン石の塊でおおむね数cm台の結晶片の集合であり,一部にセラン石の(半)自形結晶(数ミリ程度)がへばりついているような標本。


Fig. 3. 岩手石の典型的な産状,セラン石中のインクルージョン。透明なつぶつぶのどれかが岩手石かもしれない。まあ見た目ではわかりません。


Fig. 4. 岩手石の後方散乱電子像。明るい粒がほとんどすべて岩手石,私たちだけがたどりついた銀河の河原。


Fig.5.顕微鏡写真。中央の白濁したのが岩手石。

「あまちゃん」人気で盛り上がっている岩手県からの新鉱物,岩手石/Iwateiteである。まあ申請したときはドラマは始まってなかったけどね。岩手県田野畑鉱山を模式地とする新鉱物は多く,これまでに神津閃石,鈴木石,ソーダ南部石,わたつみ石,カリリーク閃石,田野畑石が発見されている。岩手石は7番目となる。岩手県からの新鉱物としては14種目か・・,ようやく岩手の名前がついた。私にとっては10種目,二桁に到達したメモリアル。

最初にちょっと脱線(長くなるけど)。田野畑鉱山のからの新鉱物で岩手石の共生鉱物である神津閃石だが,実はその名前が消滅してしまった。命名規約の変更で,「神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マンガノフェリエッケルマン閃石」となった。これがまた一見混乱する命名なのです。名前の後半の「エッケルマン閃石」というのは(Mg2+4Al3+)組成で,このFe3+置換体(Mg2+4Fe3+)には「マグネシオアルベソン閃石」という名前がすでにある。そうなると,「(旧)神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マグネシオアルベソン閃石(Mg2+4Fe3+)」のMg→Mn置換体,つまり「マンガノアルベソン閃石」に改名されるはずだとふつうは思ってしまう。ところがそうではない。なぜか?その理由はたった一つ,今回の命名規約改訂のキモはMgAlの優占種をルーツネームとして扱うことだから。つまり,「(旧)神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マグネシオアルベソン閃石(Mg2+4Fe3+)」のMn置換体という扱いではなくて,「エッケルマン閃石(Mg2+4Al3+)」というルーツネームのMn(マンガノ)とFe3+(フェリ)置換体にあたるので「マンガノフェリエッケルマン閃石」となったのだ。そうだとするとエッケルマン閃石というルーツネームのAl→Fe3+置換体に相当するはずの「マグネシオアルベソン閃石」はなぜ「フェリエッケルマン閃石」ではないのか?という疑問が生じる。ところが,この命名規約は「リーベック閃石,アルベソン閃石,アクチノ閃石,ヘスチング閃石などは消すと岩石学者が混乱するから例外的に名前を残してやる!んで,アクチノ閃石以外にはMg優占種にマグネシオってつけるから!ついでにふつう角閃石はMgAl優占種のルーツネームだけどこれにも例外的にマグネシオつけるから覚えとけよ!!」などとなっている。もうアホかと・・。どうせ分けるなら中途半端な例外なくして一つのルールできっちり仕分けてください,むしろ混乱を助長しとるわ。愛媛閃石も消されたしコノメイメイキヤクボクダイキライ。神津閃石→マンガノフェリエッケルマン閃石は病膏肓に入った鉱物マニアでも理解できてなくて,たとえばマニアの集まりMindatでもマンガノアルベソン閃石になってる(2013/07/01現在)。それまちがっとるよ。正式な鉱物名はMindatとかwikipediaではなくここを見ると良い,「マンガノフェリエッケルマン閃石」はあっても「マンガノアルベソン閃石」は無い。

さて本題。日本の場合,新鉱物の申請を行うにあたり必須ではないが推奨される手順がある。日本の鉱物学会には新鉱物・命名・分類委員会というのがあって,そこでは本申請に先立って申請書を事前にチェックしてコメントをくれるので,まずはそこに提出するのがお奨めのやりかた。新鉱物申請の経験者ばかりで構成されているので,この委員会のコメントを参考に修正した申請はたいてい本番でも問題なく通るのだ。もちろん今回の岩手石も申請に先立ってこの委員会からのコメントを求めたのだが,鉱物データ以外の思いがけない指摘を受けてしまった。

実は委員会にコメントを求めた時点ではこの鉱物は「みちのく石/Michinokuite」としていた。産地が岩手,つまり東北なんで,「東北」=「みちのく」ってことで良いじゃない。石そのものは地味だとは思う「みちのく石」は「わたつみ石」に匹敵するくらいすてきな名前だとも思っていた。ところが,その「みちのく」がよろしくないというコメントであった。要は「みちのく」って場所がいろいろ変わってきてるし,岩手県田野畑村がその代表とはちがうんじゃない?それにこの鉱物が東北で普遍的に産出するものでもないだろうから,まあやめときなよと言うものでした。未知の苦,じぇじぇじぇっ!?

そうなると名前は再考,次の候補は人名・地名である。人名で真っ先に思い浮かぶのは石っ子賢ちゃんこと宮沢賢治地名だと岩手。でも待てよ,イーハトーブ,もとい岩手あっての宮沢賢治だろ?そして鉱物には岩手の名前ががまだない,ということで岩手を先に採用しました。もちろん岩手石ができたからには次は宮沢賢治の名前を採用したい。次の新鉱物は,雨ニモマケズ/風ニモマケズ,発見されるその日を待っているだろう。そして宮沢賢治は,サフイフモノニ/ワタシハナリタイ,と思っていたのかもしれない。近い将来にかたちにできるかなあ。でもこればっかりは競争なんで他の人に先を越されるかもしれない。

さあ,岩手石の肉眼鑑定ポイントだ!胸を張って言ってやろう,絶対無理!!。夢のない発言だが肉眼鑑定はもうあきらめてください。薄片にすればそれなりにわかるけど,肉眼では無色透明で小さく結晶外形もこれといって特徴が無いのでどれがなにやらさっぱりわかりません。ただそれでもどうしても手に入れたいという熱心な愛石家はいると思う。そのような方々のために一つだけ朗報がある。なぜか岩手石はセラン石の結晶中にいることが多く,とくにFig2のようなセラン石のかたまりから薄片を作ると,50%くらいの確率で見つかる。逆にFig1のタイプの標本だとセラン石を伴っていてもほとんど見つからない(まれには見つかる)。繊維状セラン石もだめっぽい。手持ちの標本でそんな感じだったので,試しにミネラルフェアでそれぞれのタイプの標本を購入して1枚ずつ薄片を作ってみたところ,やっぱり塊状セラン石には岩手石が含まれていた。まあたまたまかもしれんけど。

田野畑鉱山からの新鉱物はこれまでにたくさん発見されていて色や特徴的な産状が目につくが,実はそれが盲点なのです。結果として研究者もアマチュアも目につくモノだけしか調べて(採って)いない,まあ当然だろう。だけど田野畑にはおもしろい元素が目白押しなので,組み合わせによっては白とか透明とか目立たない形の新鉱物があるだろうと思って研究が始まった。では,どうやって目に見えない鉱物を見つけるのか?と思われるだろう。そればかりは研究者の特権かもしれない。研究者の使う走査型電子顕微鏡(SEM)ってのは重たい元素を持っている鉱物が明るく,軽い元素からできている鉱物は暗く写る。その明暗が強くなるように調整すると,岩手石のように重たい元素(BaやSr)を持っている鉱物だけがまるで夜空の星のように白く輝く。ここは私たちだけがたどり着いた銀河の河原。この礫(こいし)はみんな新鉱物だ。中で小さな火が燃えてゐる。

 

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