足立電気石

 

No. IMA2012-101 

足立電気石 / Adachiite

CaFe2+3Al6(Si5AlO18)(BO3)3(OH)3(OH)

Trigonal

Tourmaline supergroup

大分県佐伯市木浦鉱山

Nishio-Hamane D., Minakawa T., Yamaura J., Oyama T., Ohnishi M., Shimobayashi N. (2014) Adachiite, a Si-poor member of tourmaline supergroup from the Kiura mine, Oita Prefecture, Japan, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 109, 74-78.


Fig. 1. 足立電気石の写真。低品質のエメリー鉱石を貫く脈として産出する。

 


Fig. 2. 足立電気石の結晶(タイプ標本) 。真珠雲母や緑泥石は風化して,電気石だけが残っている。

 


Fig. 3. 足立電気石の分離結晶 。色が濃すぎるだけで実は透明で光を通します。多色性が強いので方向によって青紫~ブラウンに見えます。ぼろぼろのマイカに埋もれてました。

 

電気石グループの新種,足立電気石/Adachiiteで,いわゆるチェルマック置換型の電気石となる。実はチェルマック置換型の電気石は足立電気石が世界初となる。世界でもっともシリコンの少ない(逆説的にアルミニウムの多い)電気石ということです。チェルマック置換型は輝石とか角閃石ではよくあるのに電気石ではなぜかなかった,不思議だね。

世界初となる電気石の鉱物名には足立富男 氏(1923-) の名前をいただいた。氏は宮崎県延岡市在住で御年90歳。宮崎県下の高校で教鞭をとっておられた方で研究機関の研究者ではない。しかし,氏は鉱物だけではなく地質や化石などいわゆる地学全体に対する造詣が深く,また宮崎県内だけでなく九州各地を踏破して,その地質・鉱山を知り尽くしている。地学教育の普及活動にも熱心で,学生を連れて地学巡検を積極的に行っていたとも聞いている。こういった地域に根ざした活動を行う人を「Local guide」と言って,研究者はこのような方に現地を案内してもらって研究を行うことが多い。とうぜん氏のこれまでの活動による鉱物科学への貢献は大きく,九州産の新鉱物の名前にふさわしいと思って関係者に提案してみた。もちろん異論なし!皆川先生を通じて足立先生へお伝えし,ご本人の了承をいただいた上で申請した。無事承認されてよかった。

日本産新鉱物は120種に達しようというところであるが,プロ研究者ではない人物の名前が鉱物名に採用された例は長島乙吉(1890-1969) [長島石/nagashimalite(IMA1977-045)],桜井欽一(1912-1993) [桜井鉱/sakuraiite(IMA1965-017), 欽一石/kinichilite(IMA1979-031)],益富寿之助(1901-1993) [益富雲母/masutomilite (IMA1974-046)] だけで,非常に希である。欽一石以来,実に34年ぶりとなる。足立電気石が承認された日は2013年4月2日,その日は下に掲載したランタンバナジウム褐簾石のプレスリリース日でもあったため,取材の電話がガンガン鳴っている中でのもうひとつのうれしい通達だった。

鉱物名としてだけとらえると上に書いたように34年ぶりなのだが,実は日本初のこともあるのです。というのも,足立富男氏の名前はすでにクサリサンゴ化石の一種に「Eofletcheria adachii」として採用されている。化石・鉱物の両方に名前が採用された方はプロ・アマみてもいまのところ氏が唯一(のはず)。おめでとう足立先生。

大学4年生~修士過程の私の研究テーマは「ラテライト質変成岩中の鉱物」で,大分県木浦鉱山のエメリーはまさにそのものだった。そんなわけで,木浦鉱山のエメリーから新鉱物を発見できたことは原点回帰のようにも思う。もう10年以上まえになるけど初めて訪れる木浦鉱山を案内してくれたのが足立先生だった。足立先生は覚えてないだろうが,クソ狭い道を軽バンでカっ飛ばして一日で広い木浦鉱山を5カ所くらい案内してくれた。坑道にも入って公民館の展示も見てとあわただしかったが,その健脚にはおどろくばかり。最後に川のほとりの雑貨屋でお茶を出してもらってようやく落ち着いた。

さて,足立電気石はエメリー鉱石を貫く熱水脈中に真珠雲母や緑泥石,たまにダイアスポアを伴って産出する。エメリー鉱石はコランダムとスピネルで主にできていて,その堅さがウリの商品である。純度の高いエメリー鉱石はうっすら青みを帯びた黒色緻密な塊であり,ハンマーでたたくとキンキンと音がしてまあまず割れない。逆に真珠雲母や緑泥石を伴うような鉱石は変質を受けていて比較的柔らかくて割れやすく,それ故に売り物にもならずで,出荷できないゴミとして捨てられてしまう。事務所の人からもいくらでも持って行けと言われるここの真珠雲母は手に入りやすかった古典標本なので一度は手にした人も多いと思う。その真珠雲母や緑泥石に埋もれるかたちで黒色柱状結晶が入っており,これが足立電気石だ。外観は一般的な鉄電気石そのものなので愛石家なら間違えることはまず無いだろう。実際には鉄電気石と類帯しているのだが,ほとんどすべての試料に足立電気石が含まれるから遠慮無くラベルをつけてしまおう。映える標本はむしろ風化しきったモノが良い。一見泥をかぶった標本は亀の子たわしで遠慮無くガシガシこすると頭付きの結晶が出てくるので,小汚く見えるモノのほうが実は宝物だったりする。Fig.3のステキな結晶もズタボロの真珠雲母をツンツンしてたらポロッとでてきた,ラッキー。

エメリー鉱の産出は日本ではこの木浦鉱山のみと地元では説明されているが実はそんなことはなくて,愛媛県小大下島(こおおげしま)にも立派なエメリー鉱が産出する。ただ,小大下島エメリーには電気石は無かった。まあそれはさておいても,エメリー鉱を「ラテライト質変成岩」ととらえると産地はもっと広く,愛媛県弓削島,明神島,睦月島にも産出が認められる。足立電気石の発見を受けてラテライト質変成岩っておもしろいなと改めて思うし,これからも新鉱物がでる手がかりをつかんでいるので,なんとか形にしなければ・・。

このページを読んでいるくらいの深刻な鉱物マニアなら堀秀道先生の「楽しい鉱物鉱物図鑑」はすでにもっていると思う。この本は私が初めて買った鉱物の本で,36ページに出てくるA氏が足立先生であることを知ったのは本当にごく最近だった。

 

 Posted by at 10:25 AM

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