ランタンバナジウム褐簾石

 

No. IMA2012-095  ランタンバナジウム褐簾石 / Vanadoallanite-(La)

CaLa3+V3+AlFe2+(Si2O7)(SiO4)O(OH), monoclinic

Allanite subgroup in Epidote group

三重県伊勢市

Nagashima M., Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. ( 2013) Mineralogical Magazine, 77, 2753-2771.

Fig. 1. ランタンバナジウム褐簾石(黒色結晶)。 周りのガラス光沢のある黄土色部はネオトス石。 白いところは菱マンガン鉱。灰色がかった黒いところは母岩。左右2ミリくらい。

 

Fig. 2. ランタンバナジウム褐簾石(黒色結晶)。左右0.5ミリくらい。緑がかった部分はテフロ石。

ランタン(La)とバナジウム(V)に富む褐簾石の新種,「ランタンバナジウム褐簾石/Vanadoallanite-(La)」である。緑簾石グループの中の褐簾石サブグループに分類される。この仲間は命名規約(ルール)があるので名前に選択肢は無く,ちょっと長いこの名前になった。発見地は伊勢鉱と同じところ。山口大からプレスリリースを発信してもらったので,そちらも参考にどうぞ。プレスリリースのpdfは物性研からも見られます。

さて,筆を進めよう。稲葉が地元の祭りに参加した際に山道の脇に放置された鉱石を偶然に目にしたのがきっかけで,ここから一連の研究が始まった。ここの鉱石はまあ地味で,熟練の鉱物マニアでさえ蹴飛ばすような一見つまらない鉄・マンガン鉱石なのだが,稲葉は東海地域の鉱物の研究を長年続けている愛好家で,このつまらなさそうな鉱石でさえ注意深く観察した。そしてその観察眼はさすがと言うべきだろう,稲葉はテフロ石・ベメント石脈中に見慣れない黒褐色の板柱状鉱物に気づいた。これが今回のランタンバナジウム褐簾石の発見につながった。ただ,研究そのものは後に見つかった伊勢鉱の方が先に進んでしまい,新鉱物としてはこの産地で二番目となった。

ここは秩父帯という地質でそもそもは太平洋海底の堆積物が起源。その堆積物がプレートテクトニクスによって数億年かけて日本列島の方へ移動し,はぎ取られ,再び地表に現れたのが今の姿。こうやってできた地質を「付加体」という。秩父帯の元になった堆積物が溜まった数億年前と現在堆積しつつある海洋底の条件が同じとは限らないだろうけど,近年話題の南鳥島近海のレアアースをふくむ泥は数億年後には今の秩父帯のような地質になるかもしれない。まあ付加体にはなるだろう。いずれにしても,かつて海洋底堆積物だったはずの付加体でもレアアースの資源調査は望まれる。ただ,こういった類の調査がどの程度進んでいるかに関しては論文が少なくてよくわからない。それに,鉱物屋としては海底の泥もそうだけど,変成度の低い秩父帯ではどんな鉱物にレアアースが含まれるかを明らかにすることのほうが本質だし,それは実はほとんど明らかになっていない。四国の秩父帯の鉄マン鉱床からはちょっとまえにもレアアースを含む新鉱物が発見されたばかりなので,今回新たに三重県から見つけた秩父帯の鉄マン鉱床についてもレアアース鉱物の調査を行う価値は十分にある。

そんな事情もあって伊勢の鉄マン鉱床からもレアアースのホストである褐簾石が産出したというのはやっぱり新しいかつ重要な発見なんです。そこで褐簾石を詳細に検討して鉱物種を確定させようと試みたところ,多くの褐簾石はランタンと3価鉄(Fe3+)に富む種類の褐簾石,すなわちランタンフェリ褐簾石/Ferriallanite-(La)であることがほどなく判明した。ランタンフェリ褐簾石はごく最近発見されたばかりでものすごく珍しい。さらに詳しく調べていくと,一部の褐簾石は3価鉄よりもバナジウムに富むことがわかってきた。ランタンとバナジウムに富む褐簾石となると珍しいどころか新種である。一方で,これを新鉱物として申請するには困難が予想された。まあ,実際に手間取ったせいで後に見つかった伊勢鉱のほうが新鉱物として先に世に出ることになった。

褐簾石を含む緑簾石グループの鉱物を記載するには今ではしっかりとした命名規約(ルール)があるが,昔はこのルールが無かったせいもあり,種の同定は研究者でも勘違いや間違えたりするくらいややこしかった。科博の松原先生が勘違いでストロンチウム紅簾石を日本産新鉱物にしそこねた話は有名(?)である。まあややこしいからルールができたと考えれば良いだろう。いずれにせよ,このグループは新しい組成を発見しただけでは新鉱物としては承認されない。各元素,今回はランタンとバナジウムが結晶構造の中のどこにいるかを決めることが必要なのだが,これがまた難しくてこの新鉱物候補は私の手に余った。そこで,褐簾石を含む緑簾石グループを広く研究して学位を取得し,その業績で鉱物学会の奨励賞も受賞している山口大学の永嶌真理子さんにコンタクトをとり協力をお願いした。さすがは名うての緑簾石族マニア,彼女の活躍で晴れて新鉱物の承認を得ることができた。

名前について触れておこう。「褐簾石」とは京都の大文字山に産する結晶の外観から命名された和名で,褐色をした簾のような石という意味である。1903年(明治36年)に名付けられ,そこからこの和名が慣習となり現在に至っている。しかし,褐簾石の学名である「allanite」というのは,スコットランド人の鉱物学者 Thomas Allan (1777-1833) にちなんでいることは心に留め置こう(発見は1812年にGreenlandから)。和名はしばしばオリジナルを踏襲しない。まあ,かといって今更「アラン石」なんて馴染まんので,和名としては「褐簾石」をもつかうことにする。ゴメンよ,Allanさん。和名はいつも悩ましいけど,実は統一的な見解や用法はまだ整備されていないのです。

そうそう,一般的な褐簾石はレアアースの他にトリウム(Th)やウラン(U)を含んでいて,そいつらから生じる放射線のダメージで結晶構造が壊れていることが多い。けど,この産地の褐簾石はトリウム・ウランを持っていないので結晶構造はしっかりと保たれている。

さあ鑑定ポイントに移ろう。この産地の褐簾石はベメント石やテフロ石脈中に最大1ミリ程度,おおむね0.1ミリくらいで黒褐色の板柱状結晶としてポツポツと埋没している。松脂質にぎらつく割れ口や表面のテリは褐簾石特有のものである。この鉱物は割れやすくて新鮮な母岩を叩いて完全な結晶を得るのは困難なのだが,ベメント石やテフロ石が風化してネオトス石+粘土みたいになっているところでは褐簾石は完全な結晶を見せることがある。このような標本はなかなか見栄えが良い。いずれにしても10倍のルーペでも観察は比較的容易だし,似たような鉱物は産出しないので間違えることはないだろう。ただ,伊勢鉱とは産出がまったく無関係なのでそちらに気が向いているとまず見落とす。

もう一点ポイントを追加しておく。ここの褐簾石は同じ脈中のモノでも組成が異なる。鉱物種がランタンフェリ褐簾石~ランタンバナジウム褐簾石の間で変化して,これらを肉眼で区別することはできない。そのため,確実なランタンバナジウム褐簾石は薄片なり単結晶構造解析に使った粒だったりして標本として適さないのだが,ある程度の経験則はある。ベメント石よりもテフロ石脈中の結晶のほうがバナジウムを多く含む傾向がある。そんなわけで私はテフロ石脈中のものや,それが風化してネオトス石に変質した産状のものにランタンバナジウム褐簾石のラベルをつけている。確実な標本とは言えないが,個人で愉しむ分には産状を目安にして分類するのがよいだろう。

この産地の新鉱物はこれでふたつ。それにしてもここの鉄マン鉱床は不思議。伊勢鉱で明らかとなったマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)という組み合わせもそうだが,これまでになかった元素の組み合わせがどんどん見つかる。レアアースにしても通常のレアアース鉱床はセリウム(Ce)に富むことが多いけど,この鉱床のレアアースはセリウムが少なくランタンに富むモノがほとんど。セリウム以外が濃集したのか,それともセリウムだけが選択的に消え去ったのか。そうなると現在のレアアースの堆積場である南鳥島近海の泥のレアアースの種類や量比とリンクしているのかどうかが気になる。いずれにしても天然の地質作用の必然なんだろうけど,その理由を探るのはこれからです。

 Posted by at 10:12 AM

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