伊勢鉱

 

No. IMA2012-020  

伊勢鉱 / Iseite

Mn2Mo3O8

Hexagonal 

Mn-dominant analogue of Kamiokite

三重県伊勢市

Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. (2013) JMPS, 108, 37-41


Fig. 1. 伊勢鉱の写真(左右5ミリ)。この標本は伊勢鉱のみからなり,化学組成も鉄が少なく純粋なMn2Mo3O8に近い。比較的黒い。

 


Fig. 2. 伊勢鉱の写真(左右5ミリ)。この標本は伊勢鉱と輝水鉛鉱が半々くらい。 化学組成でも鉄(神岡鉱成分)がやや多い傾向がある,(Mn,Fe)2Mo3O8。やや黒みが薄い。
 


Fig.3. 輝水鉛鉱の写真(左右5ミリ)。伊勢鉱は全く含まれない。銀白色がやや強く,結晶が細粒。でも,ルーペではまずわからない。
 


Fig.4 伊勢鉱の単結晶(80ミクロン)。一見はヘマタイトかな?と思って分析したらなんと伊勢鉱の単結晶,初めて見た。沢で拾ったらしい。許可を得て掲載_今井裕之標本(だったのを譲ってくれましたので今は私の手元にあります)。

三重県伊勢市から発見された新鉱物「伊勢鉱/Iseite」である。ちょうど一ヶ月前に,科博の研究チームによる新鉱物「イットリウム苦土ローランド石/Magnesiorowlandite-(Y)」が三重県からの新鉱物として承認され,我々の発見した伊勢鉱はそれに引き続いての承認となった。こんなの滅多にない。伊勢鉱も新聞報道され,平成24年7月3日中日新聞朝刊で紹介されている。発見者は稲葉。

これまでに見つかっている鉱物種は約4700種あるが,実はマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)を主成分とする鉱物は伊勢鉱が世界初。一見あり得そうなこれら元素の組み合わせがこれまで天然ではなかったことは意外だった(合成物は存在する)。まあとにかく天然の地質作用は我々の想像より多様性に富んでいたということで,それを体現する伊勢鉱は学術的にも価値のある鉱物だろう。

三重県からはこれまで3種の新鉱物が発見されている。カリ鉄パーガス閃石,イットリウム苦土ローランド石,そして今回の伊勢鉱だ。三重県からの新鉱物では3種目にして初めてルーツネームがついた。旧国名「伊勢国」,現在の「伊勢市」から見つかった鉱物なので,「伊勢鉱」と名付けた。「三重鉱」も候補だったが,ここはやはり「伊勢」の方がふさわしいだろう。「伊勢海老」や「伊勢神宮」のおかげもあって,「伊勢」という名前には高級感と神秘的なイメージがすでにある。そういえば「伊勢」は神様の名前に由来しているらしい。そう思うとこの一見地味なこの新鉱物も神々しく輝いて見える気がしてきた

金属光沢を持つ鉱物の和名は最後に「鉱/こう」がつき,それ以外には「石/せき」をつけるのが一般的なのだが,昔はちょっと違った。その鉱物が有用な金属を含むかどうかが「鉱」・「石」の判断基準だった。例えば共生鉱物の菱マンガン鉱。化学組成はMnCO3でピンク色した透明な鉱物であるので菱マンガン石となるべきところが,なぜか菱マンガン「鉱」である。命名されたのは明治時代,そのころマンガンは重要な金属だったのだ。そんな鉱物いっぱいあるよ。鉱物になぜ「石」・「鉱」がついてるかを歴史に照らし合わせるとおもしろいかもしれない。日本から鉱山がすごい勢いでなくなってきだしたころから「石」・「鉱」の付けかたが今のセンスとなっている。

伊勢鉱は単独で菱マン中に集合体を作り,伊勢鉱と輝水鉛鉱の共存はむしろレアケース。その理由として硫黄がちょっとでも存在するとモリブデンは真っ先に硫黄と反応して輝水鉛鉱を作るので,そのなかでモリブデン酸化物は存在しにくい。まあしかし,輝水鉛鉱との共存も無いことはなく,共存する標本は集合体の中で伊勢鉱の結晶面にコントラストがつくので,むしろ見分けやすい。一方で,輝水鉛鉱の標本にむやみに「伊勢鉱を含む」といったラベルを貼るのはお奨めしない。基本的にはそれくらい輝水鉛鉱中には無いということ。そもそもここでは輝水鉛鉱すら希産である。「同じ脈に伊勢鉱が発見された」とか「伊勢鉱が見つかった石の一部」とか書いてある標本がものすごい高値で取引されているのを見たけど,信じるものは救われるということはたぶん無いだろうな。

鉱石は磁鉄鉱・赤鉄鉱・カリオピライトが基質のいわゆる鉄マン。ベメント石・テフロ石・菱マンガン鉱が様々に基質を貫いており,菱マン脈中に輝水鉛鉱がまれに含まれる。伊勢鉱も菱マン脈中にきわめて希に含まれるが,伊勢鉱は輝水鉛鉱とものすごく紛らわしい。なんというか,輝水鉛鉱はわかるのだが伊勢鉱がわからない。一見それっぽいモノでも詳しく調べると輝水鉛鉱だけというのがほとんど。硬度(伊勢鉱は4-5,輝水鉛鉱は1)が鑑定のポイントになると思うだろうが,引っ掻こうにも菱マン(硬度4)がじゃましてよくわからないし,手加減を間違えると標本がふっとぶ。菱マン混じりの輝水鉛鉱ほど伊勢鉱そっくりに見えるから始末が悪い。伊勢鉱のほうがやや黒っぽく結晶片が大きくキラつくいて見えるのが輝水鉛鉱との違い。でもまあその程度。伊勢鉱の肉眼鑑定難易度はレベルMAX。金をかけずに伊勢鉱を手っ取り早く鑑定するには研磨薄片を作れば良い。一部をひっかいて接着剤でガラスに固定して紙やすりで#6000くらいまでスリスリすると,輝水鉛鉱は周囲の菱マンよりくぼむけど伊勢鉱はくぼまない。

先にも述べたように特異な地質作用の証拠である伊勢鉱はおもしろそうで,もっと詳しく研究をしたいのだがいかんせんあまりにも希少。一方で,伊勢鉱を胚胎する鉱床は秩父帯の層状鉄マン鉱床で,同じような層状鉄マン鉱床は四国に広く分布している。そのため四国にも産出の可能性はあると思っているが,「伊勢」と名付けてしまったからには伊勢でしか産出しないというほうがおもしろいかもしれない(Serious Collectorは困るだろうが・・)。

 

 Posted by at 8:59 AM

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