金水銀鉱

 

No. IMA2017-003 

金水銀鉱 / Aurihydrargyrumite

Au6Hg5

Hexagonal

Known synthetic compound

愛媛県南予地方

Nishio-Hamane D. & Minakawa T. (2017) approved on April.

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig.1.金水銀鉱の写真。右の粒は全体が本鉱(ただし表面のみで内部は金)。左の粒は左上の銀色が本鉱で,中央下にあるくすんだ銀色の部分はウェイシャン鉱(Weishanite)。

愛媛県から発見された新鉱物,Aurihydrargyrumiteである。記載分類学においては種名はラテン語を基本とするという古い習わしがあり,今回はその例に倣うことにした。この学名は「あうりひゅどらるぎゅるむあいと」と発音し,化学組成が由来となっている。金はラテン語で「Aurum」。これを「Auri」と変形し,水銀を意味する「hydrargyrum」とあわせ,最後に石を意味する「ite」をつけて,「Aurihydrargyrumite」となる。日本産の新種でラテン語由来の学名を持つ鉱物は初めてなのでやってみた。が,日本人には発音しにくい。それでも日本には和名という文化がある。私は和名の「金水銀鉱(きんすいぎんこう)」で呼ぶ。

川や砂浜には比重の高い鉱物や物質が集まる場所がどこかしらあるもので,そういった場所に溜まる砂のことを砂鉱(さこう)と言う(→砂鉱)。砂鉱にはきれいな結晶や宇宙塵もたくさん入っているのでなかなか楽しませてくれる。そういった砂鉱を採集していると,まったく想定外の場所でも(きわめて少量ではあるが)砂金や砂白金が見つかることがわかってきた(→自然金)。しばらくして,そのわずかにしか採れなかった砂金の内のさらに数粒だけだが,なんだか変だと気づく。砂金ではあるが一部がざらついた銀色になっており,全体が銀色の粒もあった(Fig.1)。初めはこれも砂白金のたぐいかと思ったが,やっぱりざらついた質感は砂白金と判断するには違和感がある(Fig.2)。

砂白金
Fig2.砂白金(さはっきん)の写真。この産地では砂白金もみつかる。写真の砂白金の組成はオスミウム,イリジウム,ルテニウムが含まれており,オスミウムが最も多いため鉱物種としては自然オスミウムになる。金水銀鉱と砂白金は質感が異なることが見て取れるだろう。

やっぱりこれは砂白金とは異なるという思いが強くなる。いわゆる銀(silver)が砂金のように産出しないことはよく言われているので,このざらついた銀色粒はもしかしてアマルガムではなかろうかと思いつく。アマルガムとは水銀と他の金属との化合物を指し,今回の場合では金と水銀の化合物になる。そこで粒の表面を電子顕微鏡で分析してみると予想どおり金と水銀が検出された。ほらやっぱりという満足感で心が満たされ,その日の分析を終えた。しかしこれはなんとも情けない話である。山勘が的中したというつまらないことに安堵し,その時点では新種の可能性に全く気づいていなかった。

分析までして気付かなかった原因は私の思いこみだった。アマルガムとは金と水銀が任意の割合で混じり合った柔らかい金属もしくは液体である,ろくに調べもせず私はそう思いこんでいた。しばらくして,そういえばアマルガムを扱ったことはないから調べてみようとようやく思い立つ。こんなときには相図(そうず)を見るようにしている(Fig.3)。これを見るとある条件でどういった相(物質)ができるかが一目でわかる。

相図
Fig 3. 0-100℃までの金-水銀系相図。データ元[1]はNIMSのMatNavi[2]などから無料で見ることができる。書物にはよく「水銀は金を溶かす」とさっくり書いてあるが,実は液体水銀そのものに金はほとんど溶け込まない。実態としては「水銀と金との微細な化合物が速やかに形成され,さらに液体水銀が多ければ化合物との混ざりモノになる」ということだろう。

[1] Okamoto H., and Massalski T.B., Au-Hg (Gold-Mercury), Binary Alloy Phase Diagrams, II Ed., Ed. T.B. Massalski, Vol. 1, 1990, p 376-379
[2] http://mits.nims.go.jp/

上の図(Fig.3)には今回の新鉱物の化学組成の場所も示した。その場所ではAu2Hgという相(固体)とほとんど金を含まない液体水銀の混合物になることを相図は意味している。だが今回の新鉱物は分離しておらず明らかに一つの個体物質である(Fig.4)。この化学組成を持つ物質は相図には載っていない。これはどういうことだろう。

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig4。SEM写真。このスケールでも液体水銀は確認できず一つの固体物質に見える。

相図はたしかに一つの結論ではある。ところが相図には出現しない物質でもなんとか合成できることがある。そういったムリヤリ作ったモノは準安定相と呼ばれる。調べたところ金-水銀の系にはそんな物質が存在していた。それはAu6Hg5である。こいつは金と液体水銀を混ぜただけではできない。こいつを作るには金を溶かした王水と水銀酸化物を溶かした硝酸を混ぜた液体を用意して,それをアンモニア水溶液中でヒドラジンを使って還元するという処理を行う必要がある。1970年にはその合成を記した論文が出版されている[3]。だがこの論文はこれまでにほとんど引用されていない。Au6Hg5相は今ではほとんど忘れ去られた物質と言える

[3] Lindahl T. (1970) The crystal structure of Au6Hg5. Acta Chemica Scandinavica, 24, 946-952.

そんなAu6Hg5相に今ここで出会うことになるとは思っていなかった。この相の化学組成を100分率で表すと金54.5%と水銀44.5%の割合で,私が調べた銀色もまったく同じだった。そうなると我々が見つけた銀色のブツはAu6Hg5相に相当する天然モノに違いあるまい。そいつをちょんぎって中身を見てみると,銀色の部分は表面の2ミクロン以下の厚さしかないこともわかった。全体としてはほとんどが「金」という鉱物なのだ。それでもその薄皮一枚は新鉱物のはず。どうにかその薄皮からX線回折パターンを取ることに成功し,予想どおり合成されたAu6Hg5相と同じパターンが出てきた。データを整理して国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名委員会へ申請書を提出し,承認を得た。新鉱物「金水銀鉱」の誕生である(Fig 1.)。

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig1. 新鉱物・金水銀鉱 (上のFig1の再掲載)

誰しもが思いつくひとつの疑念がある。昔にアマルガム回収法で金を回収した際の残り物という可能性。ただ模式地には上流に金鉱山は無く砂金の産出もこれまで知られていなかった。一部の場所で凸凹岩の隙間にたまった少量の砂鉱からほんのわずかに砂金が見つかるのみである。少量の砂鉱しかなく,微々たる量しか砂金が産出しない川でアマルガム回収法は普通はやらない。これは砂金を含む砂鉱がある程度まとまって存在する場所でやる方法である。その場所ではもっと大きな地域としてみても記録はない。その一方で,場所はやや離れているが同じ地質帯の露頭から金と水銀を含む石英脈を発見している。こういった状況でこのたびの新鉱物は天然物であると判断した。

それでも人工ではムリヤリ作るしかない金水銀鉱がなぜ天然では産出するのだろうか。仮に別々にやってきた液体水銀と砂金が反応したとする。だがそれでは金水銀鉱はできないことは相図が教えてくれる。いまのところ成因は自己電解精錬(self-electrorefining)のたぐいと考えている。これは天然の砂金の表面が高濃度の金で覆われている現象の元になる反応のことで[4],砂金を構成する金属のイオン化と自己触媒による還元が関わっている。イオンからの還元でのみ合成できる金水銀鉱を説明するには,この自己電解精錬が自然なシナリオに思える。

[4] Groen J.C., Craig J.R., Rimstidt J.D. (1990) Gold-rich rim formation on electrum grains in placers. Canadian Mineralogist, 28, 207-228.

ざっくり言うと,いくぶんか水銀を含む砂金があったとして,そういった砂金は水中での自己電解精錬によってやがて表面に金水銀鉱を生じることになる。そこに至る中間段階に相当する砂金は見つかっているし,自己電解精錬がさらに進んだと思われる物質も報告がある[5]。それらはまだ新種として確立されていないので,Au-Hg系の鉱物種は今後に増える可能性は高い。ただし「水銀を含む砂金」が人工物か天然物かという問題はつきまとうので,産地の地質や歴史は重要な判断基準となるだろう[6]。

[5] Atanasov V.A. and Jordanov J.A. (1983) Amalgams of gold from the Palakharya river alluvial sands, district of Sofia. Doklady Bolgarskoi Akademii Nauk, 36, 465-468.
[6] Barkov A.Y., Nixon G.T., Levson V.M., Martin R.F. (2009) A cryptically zoned amalgam (Au1.5-1.9Ag1.1-1.4)Σ2.8-3.0Hg1.0-1.2 from a placer deposit in the Tulameen-Similkameen river system, British Columbia, Canada: Natural or Man-made?. The Canadian Mineralogist, 47, 433-440.

ネットで「砂金 アマルガム」と検索してみると銀色の粒が表示される。砂金掘り師たちの間では銀色の砂金はすでに知られていたようだ。ただすべてがアマルガムの一言でくくられている。人工物か天然物かの問題はひとまず置いて,こういった銀色砂金は中身の検証も大切だと思う。まずは一粒だけで良いからその銀色の砂金にカッターナイフを押し当ててちょん切ってみよう。普通は容易に切断できるはずだが,もし切断できなければそれは砂白金や他のモノだ。さて,切断出来たとして中身が金色に輝いていたら,その銀色は表面だけの事象であり金水銀鉱の可能性がある。また砂金の一部が銀色という産状も多いようだ。それも金水銀鉱だろう。

見てる限りの印象だが,銀色の砂金が見つかったとしてがっかりする砂金掘り師は多いと感じる。捨てたとか焼いて金に戻した猛者もいるようだ。まあその気持ちはわからんでもない。一方で金水銀鉱それ自体は紛れもなく天然が生み出した芸術だと思っている(たとえ人工アマルガムが元になっていたとしても)。なので捨てるくらいならどうか譲ってもらえないだろうか。ほかの産地を調べてみたいという事情もあるが,私は自然の芸術作品である金水銀鉱が好きなのだ。

 Posted by at 10:16 PM

Sorry, the comment form is closed at this time.