櫻井賞受賞,後日譚

 

本鉱物科学会・櫻井は新鉱物の研究に貢献し,顕著な業績をあげた会員に贈呈されるもので,鉱物学者・櫻井欽一の還暦を記念して1973年に設立され,賞状と純銀製のメダル+副賞が授与されます。私,このたび2014年9月に日本鉱物科学会から櫻井賞を受賞しました。ありがたいこってす。大変うれしくおもいます。ところが受賞直後に自身の行動から疑心暗鬼におちいる事態に・・。これはその備忘録でもあります。


メダル表裏,メダルには櫻井先生の近影,受賞対象の鉱物,受賞者,メダルの号数などが刻字されています。私は「宮久石」という新鉱物でこの賞を受賞しました。


この櫻井メダル,「純銀」製といわれており,その印字がある。感触を確かめるべく手のひらの上でポンポンと弾ませていました。これが櫻井賞の重みか。

さて,学会では新規ユーザー獲得のために様々な企業がデモブースを開いていることがしばしばあり,鉱物学会にもいくつかの企業が来ています。櫻井賞メダルをネタに旧知の方と「ほんとに純銀か?」なんて冗談をとばしているところでとある企業ブースに目が行く。OLMPUSとアイリス株式会社の共同ブース,そこに置かれているそのブツ,「DELTA Premmium」。こ,こいつは,いちど触ってみたかったハンドヘルド蛍光X線装置ではありませんか。簡単に言うと銃の形をした手持ちの機器で,銃口を目的物に押しつけてトリガーを引けば化学組成がわかるというシロモノです。そして手に持っているのは純銀製とされる櫻井賞メダル。をしたかおわかりでしょう。サイエンティストたるもの冗談でも出た疑念は解決せねばなるまい!!

 


DELTA Premium本体はぶら下がっている黄色い銃型の装置で,普段使いは装置を手持ちでOKです。今回は外乱を防ぐ専用箱オプションを使った。PCでの遠隔操作が可能。

 


箱の中心のセンサーにかかるように目的物をおきます。そのあとで蓋をして測定開始。

 


ものの数秒でピークが出てきました。20-25keVに銀(Ag)の鋭いピークあり!でもでも,おやおや?なんだか8keVあたりにもけっこう強いピークが見えますぞ? ま・さ・か??

 


定量値を数値で出してみました。8keVあたりのピーク,なんとニッケル(Ni)です。それもモルで50%検出されました。純銀製じゃない??

そんな馬鹿なー!純銀製を謳っている櫻井賞メダルからニッケルが検出されてしまいました。しばし狼狽,再測定して見るも結果は同じ。ニッケル!? 新種の鉱物ならぬ新種のメダルを発見してしまったかもしれないという落胆を受けながら,改めて手のひらの上でポンポンと弾ませみるとなんだか少し物足りない気がした・・。

いやいやまてまて。分析結果は一つの真実だけども物事をもっとポジティブに考えてみようではないか。蛍光分析は表面から数ミクロンの深さまでの情報しか得られないから,中身はわからない。銀というのは空気中に放置すればやがて茶色く錆びてしまう意外に頼りない金属だが,ニッケルは光沢を保つ。そうなるとニッケルというのはメッキで,中身はちゃんと銀かもしれないよ。もちろん合金かもしれないが・・・

ということをいろいろ考えながら物性研に帰ってきたぞ。さっそく調べてみよう。おおよその推定ができれば良くて非破壊が望ましい。となると比重測定が良さそうだ。

 


直径4センチなので半径2センチ(あたりまえ)。

 


厚み(高さ)はでこぼこしているので難しいけど,約2.4ミリ平均でひとまず計算してみますか。

 


重さも量ってみましょう。33g。うーん,意外に軽い(失礼)。

測定してみると密度は重さ/(半径×半径×π×高さ) = 33/(2×2×3.14×0.24) = 10.95g/cm^3となりました。高さをやや少なめに平均しているのでまあこんなものか。この値は銀の密度(10.49 g/cm^3)に近いです。ニッケルの密度は8.98 g/cm^3。もしメダルの厚みが2.7ミリ平均なら9.73 g/cm^3で,これは蛍光分析のAg:Ni=1:1と一致しますが,櫻井先生の肖像以外は厚さが2.5ミリを上回ることはないので,おそらくは平均2.7ミリはありえないでしょう。と言うことでニッケルはメッキと思われます。

もし銀-ニッケル合金ならということを考えて,銀-ニッケル相図を参考にしてみましょう(最初に見ろとは言わないで)。フリーでも利用できるソースだとこれでしょう(→相図)。これをみると2000℃以下では最大でも95銀:5ニッケルくらいまでしか合金を作らないことが読み取れます。また,蛍光分析で見えた1:1の結果の合金を作るには約3000℃くらい必要。それにその組成の合金も回収できるのかどうかはまた別問題だし,1:1の銀-ニッケル合金は純銀よりもむしろコストがかかりそう。ということで,やっぱり合金ってことはないだろう。

とりあえず銀-ニッケル合金の可能性は考えなくとも良さそうですがニッケルが検出されたのは紛れもない事実なのです。そうなると「純銀」の表記があるモノにメッキはOKなの?って疑問はやっぱり残る。その疑問を解決すべく調べてみたが,どうやら「純銀」と印字する規格は存在しないようだ(造幣局基準のマークはあるようだが,櫻井メダルにその印字はない)。それでもね,僕のもらった櫻井メダルのニッケルは銀が錆びないための善意のメッキであろうから,それは個人的にはむしろありがたい。以前に友人がもらったメダルはやっぱり時間を経ると錆びてたので,これは本当に「純銀」だったんだろうと思う。友人~私が受賞するまでのどこかのタイミングでメッキになったんだな。そして今回はじめて見出されたメッキのことは実は櫻井記念会も知らなかったようです。来年以降,「純銀」表記がどうなるかな?

えー,ということで,櫻井賞受賞にまつわる備忘録&後日譚でした。

 

 Posted by at 10:19 PM

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