平成13年度研究成果報告 
「2次元場に固定された配向分子の反応」
(東大・物性研究所)吉信淳、常行真司、山下良之、赤木和人 

(1)Si(100)表面の非対称ダイマーの反応性について

Si(100)(2x1)の表面原子は非対称ダイマーを形成し,低温では非対称ダイマー間に長距離相関が生じc(4x2)相をとる.ダイマー内で電荷移動が生じ,上部ダイマー原子はネガティブに,下部ダイマー原子はポジティブにチャージしているので,それぞれルイス塩基的・ルイス酸的にふるまうことが期待される.この2次元的に規則配列した表面反応場におけるサイト選択的反応を調べるために,CO,BF3,ピリジン,トリメチルアミン(TMA)などを導入し,高分解能内殻光電子分光などを用いて,表面Si原子の化学状態や分子種の吸着状態を調べた.例えば,ルイス酸であるBF3分子はSi(100)表面でSi-BF2とSi-Fに解離吸着するが,どちらの吸着種も上部ダイマー原子に優先的に吸着していることがわかった.また,ルイス塩基的なCO分子は,下部ダイマー原子に選択的に吸着することが低温STMや高分解能内殻光電子分光で明らかになった.

 

(2)Rh(111)表面における水の吸着と氷の成長

25KのRh(111)表面における水分子の吸着過程と,アモルファス氷への成長,加熱による結晶性氷への変化を,赤外反射吸収分光(IRAS)で詳細に調べた.単分子層以下では,水分子はRh(111)表面で,モノマーからダイマー,テトラマーなどへクラスターし,水素結合ネットワークを形成し,その後アモルファス氷が3次元的に形成される過程を明らかにした.アモルファス氷と結晶性氷の表面に存在する孤立水酸基についてCOをプローブ分子として性質を調べた.また,アモルファス氷中のCOの熱的および電子的励起による化学反応について調べている.

 

(3)理論班では、低温の氷中での化学反応は水分子の回転の抑制された条件で進む点に注目し、溶液中でのそれと異なった性質を表す可能性を探ることにした。そこではプロトンの移動が本質的な働きをすることが期待されるため、特定条件の下で氷中のCO分子が水分子と酸化還元反応を起こして一連のC1化合物を生成する機構を題材とし、量子化学的な計算手法を用いて外部からの影響を考慮しない基底状態における反応経路を探索した。その結果、COは疎水性の分子であるが、酸素部位に強制的に水分子を近づけることでCO分子との軌道混成をある程度進めてやれば、複数の水分子を経由してプロトンが玉突き状に移動してギ酸に似た反応中間体に到達すること、このエネルギー障壁(〜0.8eV)は、100Kという低温から見ると大きいものの、気相中での同様の反応(〜2eV)に比べるとかなり小さくなっており、水がクラスタとして作用することでプロトンの関与する化学反応をアシストする描像が成り立つことを確認した。しかし,水分子の並進・回転を抑制した条件下でのさらなる緩和経路は見いだしがたく1eV 以下のエネルギー障壁でのCO2への反応は進行しない可能性が高いという感触を得ている。そこで比較のために、系に余剰電子を1個注入した状態での同様の計算も始めた。

 

論文リスト

・Kanae Hamaguchi, Shinichi Machida, Masashi Nagao, Fumiko Yasui, Kozo Mukai, Yoshiyuki Yamashita and Jun Yoshinobu, Hiroyuki Kato, Hiroshi Okuyama, Maki Kawai, Tomoshige Sato, Masashi Iwatsuki, "Bonding and Structure of 1,4-cyclohexadiene Chemisorbed on Si(100)(2x1)" , J. Phys. Chem. B105 (2001), 3718 -3723.

・Shin-ichi Machida, Kanae Hamaguchi, Masashi Nagao, Fumiko Yasui, Kozo Mukai, Yoshiyuki Yamashita, Jun Yoshinobu, Hiroyuki Kato, Hiroshi Okuyama, and Maki Kawai, "Electronic and vibrational states of cyclopentene on Si(100)(2x1)", J. Phys. Chem. B 106(2002)1691-1696. ・Y. Yamashita, S. Machida, M. Nagao, S.Yamamoto, Y. Kakefuda and K.Mukai and J. Yoshinobu, "Direct evidence for asymmetric dimer on Si(100) at low temperature by means of high resolution Si 2p photoelectron spectroscopy" Jpn. J. Appl. Phys 41(2002)L272-L274.

・Nagao,Masashi/Yamashita,Yoshiyuki/Machida,Shinichi/Hamaguchi,Kanae/Yasui,Fumiko/Mukai,Kozo/Yoshinobu,Jun, "Nature of interface bonding of ethylene and benzene with Si(100)c(4x2) by means of angle-dependent Si 2p high resolution photoelectron spectroscopy" , in press, Surf. Sci. (May, 2002)


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