平成13年度研究成果報告
水分子凝集体表面への分子吸着と反応
(理研)川合真紀、加藤浩之、堀本訓子


1.氷表面における疎水性分子の振る舞い

 平成13年度は、メタンやテトラフルオロメタンなどの非極性分子(疎水性分子)が氷表面に取り込まれる過程の詳細を検討した。実験では、温度を制御して作成した形態の異なる氷表面にメタン分子を吸着させ、その取り込まれる過程を赤外反射吸収分光と昇温脱離法を用いて観測した。これによると、メタン分子に対する安定サイト(孔:pore)は、氷薄膜中に少なくとも2種類存在し、温度上昇に伴って、段階的に消失(閉殻化)することが明らかになった(図1)。すなわち、疎水性分子が氷表面に取り込まれる過程では、氷表面のモフォロジー変化が重要な要因となっていることを突きとめることが出来た [1]。これら実験結果は、氷表面における疎水性分子の振る舞いが、親水性分子が水凝集体に溶解する場合(水表面にある孤立OH基と先駆的な準安定状態を経る [2] )と、全く異なった過程であることを端的に示すものである。


図1.赤外反射吸収分光と昇温脱離法を用いて観測した氷薄膜中の孔の段階的消失過程

2.走査プローブ顕微鏡による水凝集体の微視的観察

 平成13年度はさらに、いくつかの新しい実験に取りかかった。その一つが、走査プローブ顕微鏡による水凝集体の微視的観察である。低温に冷やした金属表面に水分子が吸着すると、安定した構造の水クラスターが形成される。それをトンネル分光の手法を用いることで、水分子間のサイト選択的な相互作用の研究が期待できる。くわえて、室温に近い領域では、気相ム吸着相間の平衡状態における観測を行える可能性があり、物質表面の濡れ性や摩擦などに関する微視的研究を目指して装置の改良を行った。



参考文献:
[1] N. Horimoto, H.S. Kato, and M. Kawai, J. Chem. Phys. 116, 4375 (2002).
[2] H. Ogasawara, N. Horimoto, and M. Kawai, J. Chem. Phys. 112, 8229 (2000).

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