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[物性研ニュース]
テレビドラマ「ガリレオ」の撮影が行われました
5月20日(月)に放映された、テレビドラマ『ガリレオ』第6話(フジテレビ系列)。この中で、物性研究所・極限コヒーレント光科学研究センターが登場しました。

撮影されたのは、『NTC製作所』で研究をする野木主任研究員(夏川結衣さん)を湯川先生(福山雅治さん)と岸谷刑事(吉高由里子さん)が訪ねるシーンです。このシーンに登場する実験装置についてQ/A形式で紹介します。また、去る5月4日に行われた撮影の様子を紹介します。


Q/A


LAYSOR 実験室

Q1.
(岸谷刑事) 『なんじゃこりゃー』
(湯川先生) 『。。。素晴らしい』
に始まるシーン。ここは、どこですか?

A1.
ここは東京大学物性研究所・極限コヒーレント光科学研究センター(LASOR)の先端分光実験棟です。通称『柏のレイソール』です。床面積 400m2 の体育館ほどあるクリーンルームに、最先端のレーザーと装置がギッシリと並んでいます。レーザーポインターとは比べ物にならない巨大なレーザー群の中には、

  • 高強度レーザー(レーザーポインター3万個分)
  • 超高強度パルスレーザー(日本の総電力に匹敵するパワーを1000兆分の1秒という一瞬だけ出す)
  • 超精密レーザー(人類が誕生してから現在に至るまで1秒のくるいもないような時計に応用可能)
  • 全長30メートルの超大型紫外周波数コムレーザー発生装置(とにかく巨大)

などがあります。これら究極的・個性的なレーザーを駆使することで、新しい光科学を切り拓く研究を展開しています。




LAYSOR 実験室

Q2.
(湯川先生)
『これは、半導体量子構造を計測するシステムですね?』

A2.
(野木主任)
『はい。私はここで光子と電子の相互作用を研究しています。半導体量子構造や超高速非線形分光技術を使っています。』

正解です!

ここでは『超高速非線形分光技術』と4分割して、解答を補足します。

もしも世の中の現象が全て画一的で、押したら押しただけのレスポンスしか返ってこなかったとしたら、世界はとても退屈でつまらないものになっていたでしょう。幸い、我々の世界は画一的でない現象に満ち溢れているので、『実に面白い』のです。

非線形現象とは、押したらそれ以上のレスポンスが返ってくることを言います。一方、体重計が示すような素直なレスポンスは、線形現象です(これはこれで美しい物理です)。

さて、光が物質に照たるとき、赤い光を入れたら青い光が返ってくるような、驚くべき非線形現象があります。これは夢膨らむ実に面白い現象です。例えば、実物に対して素晴らしい虚像を映し出す白雪姫の不思議な鏡は、非線形光学効果を使えば出来るのかもしれません。
高次高調波の発生

右が実際の写真です。ノズルの先から噴き出すガスに向かって、左から赤外光が入ってきます。強度が弱いうちは、赤外光は右へと筒抜けていくだけです。ところが光の強度を2倍、3倍・・・と上げていくと、いずれ右側に向かって、レントゲン撮影にも使えるエックス線が噴射してくるのです。これは高次高調波発生という、光と物質(ガス)が織りなす非線形光学現象です。

このような現象は日常レベルの光強度ではおきません。レーザーポインターでも弱すぎて無理です。ここ物性研究所・LASORにある超高強度の赤外線パルスレーザーなら、高次高調波発生は可能です(日々行っています)。

そして何と、このようにして得られた高次高調波は、1000兆分の1のさらに1000分の1秒(1アト秒 = 10-18秒)という超高速の時間スケールでしか光らないフラッシュにさえなり得るのです。これは。。。実に面白い技術として利用できるのでは?

野木主任研究員は、こうして発生させた一瞬しか光らない究極的なストロボの紫外線やエックス線を使って、物質の中で起きる超高速現象を研究しているのです。視覚反応、光合成、光触媒反応など、光と物質の反応は、1000兆分の1秒(1フェムト秒 = 10-15秒)の時間スケールに鍵があると言われています。なぜならこの時間スケールで、まず物質中の電子が動き出すからです。ドラマのシーンに登場した装置は『極紫外時間分解光電子分光装置』で、まさに物質の中で電子が動き出す瞬間をとらえることができるのです。

以上が、今回登場した装置に関する『超高速非線形分光技術』でした。


LAYSOR 実験室

Q3.
なぜ装置はアルミ箔でくるまれているのですか?

A3. 
これは装置の心臓部、電子エネルギー分析器です。容器の中は真空です。実は、石焼きイモと同じ要領で、装置をポクポク焼きます(ベーキングと言います)。こうすることで容器内壁に付着している水分や残留ガスを涸らし、よい真空をつくりだすことができます。均一な温度で焼けるように、アルミ箔でくるまれています。日常感覚のテクニックも、かなり活躍しています。

こうして作り出されたとてもきれいな真空容器の中に、先に説明した究極の紫外線パルス光が導かれ、測定物質に照射されます。すると、物質の中の電子が真空中にたたき出されます。これも日常の感覚ではありえないことです(太陽光を浴びて、体から電子が洩れでたら、大変です)。この現象を光電効果と言い、アインシュタインはこれを『光子と電子の相互作用である』と解明することでノーベル賞を受賞しました。物質の中の電子を手に取るように観ることができるので、我々の思考を一気に原子・分子レベルかつ1000兆分の1秒の超高速の世界へといざないます。

このようにして、物質の中の電子の挙動を、1000兆分の一秒の超高速時間領域で刻々と観測することが可能になりました。実際に、電気を流さない絶縁体が光照射とともに1000兆分の1秒というとてつもなく速い時間スケールで金属になる現象などを直接捉えることに成功しています。


防護メガネ

Q4.
岸谷刑事や野木主任がかけていたゴーグルは何ですか?

A4.
強烈なレーザーから目を保護するための眼鏡です。レーザーが点いている実験室では、これをかけて安全に実験をしなくてはいけません。撮影時は安全に十分配慮していましたが、これをかけることで実際の実験室と同じ臨場感と緊張感が出ました。湯川先生のゴーグル姿も、クールでした。

なお、柏キャンパスでは、毎年10月に一般公開というイベントが開催されます。物性研も毎年様々な楽しい企画を用意しています。このゴーグルは、公開の対象になるかもしれません。是非、ご期待下さい!



撮影の様子


撮影風景

撮影は5月4日(土)に行われました。朝9時過ぎから続々と撮影スタッフや俳優の方々が来所されました。既に朝5時から東京・大手町での第一現場での撮影をこなしてきた後、というから驚きです。

メイキングルームが急造され、夏川結衣さん、吉高由里子さん、そして最後に福山雅治さんが到着。その間にも、クリーンルームでの撮影に向けて機材の埃おとしとエアシャワーでの清めの作業など、準備は慌ただしく進みます。照明にライトアップされた装置群は壮観でした。

今回のガリレオ第6話『密室る(とじる)』の撮影は、若手の監督さんの指揮のもと執り行われました。ひとつの場面を様々な角度から撮るためか、同じくだりがtake12されることもありました(中にはNGも)。撮影から放映までの日数が少ない中で、編集作業はどのように行われるのでしょう。既に3話連続で視聴率20%超え(結局4話連続。今回の第6話も関東地方で視聴率20%を超えたそうです!ビデオリサーチ調べ。)と驚異的な人気を博しており、現場はとても張り合いのあるよい雰囲気でした。若い監督さんの、今後益々のご活躍が楽しみです!

ゴールデンウィーク後半の首都高6号線の渋滞でロケバス到着が若干遅れ、少し押し気味でしたが、極秘に行われたこともあり大きな混乱もなく、15時過ぎに撮影は無事終了しました。と思ったら、ガリレオ撮影チームは次の木更津のロケ地へ慌ただしく移動。お疲れ様です!



おわりに


宇宙の果てや、深海の底だけでなく、未知・未解明の現象は身の回りにもたくさんあります。「風にそよぐ木の葉は、10秒後にどの向きにそよいでいるか?」という問いにさえ、決定的な答えはありません。
この中で、物質の中で起きる不思議な現象を、あらゆる技術を駆使して知ろうとするのが物性科学です。手に取ることのできる物質を対象にしているので、研究成果が人類に役に立つ応用に結びつくことが多々あるという点も、この分野の一つの醍醐味です。

物性研究所は、その名の通り『モノの性質について研究をするところ』です。大型の基盤技術を開発し、日本全国の研究者・研究機関と共同して物性科学を推進するという使命も担っています。今回撮影に使われた究極のレーザー群の他にも、世界一の強磁場発生、超高圧、超低温といった極限的な環境をつくる技術、中性子線、シンクロトロン光、スーパーコンピューター等の大型施設があります。これらの基盤技術は、科学を強力に推進する上で必須となります。二番煎じの技術を目指していてはいけません。

最先端の技術、オリジナリティー、根気、気合、運動神経、運、あらゆるものを駆使して、物性科学のわかる・わからないの境界を押し広げたり、既成概念を覆したり、という作業をしています。このような営みを続けるうちに、

  • 物質において生物のような無駄のない機能は実現できるのか?
  • 原子や分子を組み合わせて、望むべき性質を生み出せるか?
  • 我々の日常からかけ離れた、超非平衡状態を理解し、制御できるか?
  • 室温で超伝導はおこせるか?

といった、現代の物理学ではまだまだ答えに窮する問いに対して、思いがけないアプローチや全く新しい世界観が開けてくるかもしれません。そうなれば、『実に面白い』をつきぬけてオモシロイではありませんか!

文責 極限コヒーレント光科学研究センター 石田行章