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[物性研ニュース]
柴山教授 高分子学会賞を受賞
柴山充弘教授
柴山充弘教授
中性子科学研究施設の柴山充弘教授が第59回高分子学会年次大会(平成22年5月26日ー28日)において、平成21年度第22回高分子学会賞を受賞されました。高分子学会賞は高分子学会会員で高分子科学、技術に関する独創的かつ優れた業績を挙げたものに授与されるもので、受賞の対象となったのは高分子科学における「中性子散乱による高分子ゲルの精密構造解析」(Precision Analyses of Polymer Gels by Neutron Scattering)で す。

柴山教授は、1990年代初頭から高分子ゲルに関する中性子散乱(SANS)研究を開始し、高分子ゲルの臨界現象、弱荷電性高分子ゲルのミクロ相分離に関する研究などといった独創的な研究をはじめとして、高分子多成分系の構造解析において極めて重要な研究を数多く行ってきました。最近では定量性に優れている中性子散乱の特性をさらに生かし、高分子ゲルの基礎研究から応用研究に至るまで、常に独創的・開拓的な中性子散乱研究を展開しています。これらの研究は、既存汎用材料の精密構造解析に基づく物性研究から、新規材料の開発とそれらの物性発現の分子論的説明、新しい中性子散乱解析法の開発に及ぶもので、多くの重要な知見を得ています。以下にそれらの研究の概要を述べます。

(1)高分子ゲルの体積相転移および相分離の微視的描像の解明
 1970年代に発見されたゲルの体積相転移の研究に中性子小角散乱を初めて適用し、ゲルの臨界現象と体積相転移の微視的描像を説明しました。そして、非荷電ゲルにおいては臨界現象が観測される2次相転移が起こること、一方の荷電ゲルでは、ゲルの収縮を殆ど伴わないで数十nmの周期をもつ特徴的な構造が発現する過程と、それに続く相関長の発散を伴わない1次相転移で収縮状態に移行する急激な体積減少が起こることなどを発見しました。

(2)高分子/水系における疎水性相互作用の圧力依存性の研究
 下限臨界共溶温度(LCST)をもつ高分子・水系の温度・圧力依存性について、ホモポリマーからブロック共重合体、粒状タンパク質水溶液へと順次複雑な系へと対象を拡大させながら高圧小角中性子散乱実験を行い、疎水性相互作用の圧力依存性は常圧で顕著であるが高圧になると圧力誘起相分離の特異性が低下することを発見しました。そして、この現象を静水圧増加に伴い自由体積が減少することで疎水水和結合が形成されにくくなることに起因するとして説明し、常温常圧という環境条件が生命活動に非常に重要であることを小角中性子散乱実験から示しました。

(3)超高強度高性能ゲルの精密構造解析
 環動ゲル、ナノコンポジットゲル、Tetra-PEGゲルなどといった従来の常識を覆す強靱な種々のゲルに対し、小角中性子散乱による精密構造解析を行い、分子論的観点から優れた力学物性の発現メカニズムを解明しました。

(4)中性子非干渉性散乱・多重散乱に関する理論的研究
 物質中の軽水素由来の多重散乱を理論的に説明し、高分子系の中性子散乱において不可避的に観測される非干渉性散乱バックグラウンドを定量的に差し引く理論を提案し、非干渉性散乱強度の試料厚み依存性を正確に求める方法を開発しました。この理論は、中性子散乱の精密構造解析に大きな進展をもたらしました。

 このように、柴山充弘氏は小角中性子散乱法を駆使し、高分子系、特に多成分高分子系を対象として、それらの構造、揺らぎ、相転移、相分離、不均一性などを極めて定量的かつ精緻な解析を行い、多くの成果を挙げ、ソフトマター物理の構造物性学とでも呼ぶべき分野の進展に大きな貢献をしました。
参考文献
M. Shibayama, et al., J. Appl. Crystallogr., 42, 621 (2009).
T. Matsunaga, et al., Macromolecules, 42, 6245 (2009).
N. Osaka and M. Shibayama, Phys. Rev. Lett., 96, 048303 (2006).